2022.06.26
02 筋肉をつけると仕事がうまくいく科学的な理由

筋肉をつけると仕事がうまくいく科学的な理由
筋肉をつけると、仕事がうまくいくようになります。
「筋肉と仕事になんの関係が?」と疑問に思うかもしれません。多くの人は、肉体労働ならまだしも、デスクワークや知的労働において筋肉の量がパフォーマンスに直結するとは考えにくいでしょう。しかし、近年の神経科学や生理学の研究は、筋肉を鍛えること(筋力トレーニング)が、単に体を強靭にするだけでなく、思考力、集中力、メンタルヘルス、そして最終的な仕事の成果にまで、深く、かつ多角的に貢献する科学的根拠を次々と明らかにしています。
順に説明していきます。
まず、最も体感しやすく、そして全ての土台となるのが、筋肉をつけることによる「体調の劇的な改善」です。ビジネスパーソンにとって、体調管理は最も基本的な自己管理能力の一つであり、体調の良し悪しが日々の生産性に直結することは言うまでもありません。
筋肉を動かすことで全身の血管がポンプのようにリズミカルに刺激されるので、血流がよくなるからです。これは専門的に「**骨格筋のポンプ作用(ミルキングアクション)**」と呼ばれます。特に、ふくらはぎや太ももといった下半身の大きな筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、重力に逆らって血液を心臓に送り返す重要な役割を担っています。筋トレによってこれらの筋肉が発達し、日常的に使われるようになると、全身の血液循環が恒常的に改善されます。血流が良くなると、酸素や栄養素が体中の細胞(もちろん脳細胞を含みます)の隅々まで効率よく届けられ、同時に二酸化炭素や疲労物質などの老廃物が速やかに回収・排出されます。これにより、慢性的な肩こり、腰痛、冷え性といった、デスクワーカーを悩ませる多くの不調が根本から改善されることが期待できます。
血流がよくなれば睡眠も深くなり、質のいい眠りが得ることができます。このメカニズムは複数あります。第一に、血流改善によって体温調節機能が向上します。人は、深部体温(体の内部の温度)が下がるタイミングで眠気を感じるようにできています。筋トレを行うと一時的に体温が上昇しますが、その後、体は体温を元に戻そうとして熱を放散させ、深部体温が効果的に下降します。この体温の落差が、自然で深い眠りへの導入を強力にサポートするのです。第二に、筋トレは「**セロトニン**」という神経伝達物質の分泌を促進します。セロトニンは日中の覚醒や心の安定に関わるホルモンですが、夜になると「**メラトニン**」という睡眠ホルモンに変換されます。日中に筋トレ(特にリズミカルな運動)でセロトニンを十分分泌させておくことが、夜間の質の高い睡眠に直結するのです。質の高い睡眠、特に深いノンレム睡眠中には「**成長ホルモン**」が大量に分泌され、これが日中のトレーニングで傷ついた筋線維の修復・強化、そして全身の細胞の修復や疲労回復を促進します。
なので頭がスッキリした状態で仕事に臨めるようになります。
質の高い睡眠によって前夜の疲労が完全にリセットされ、脳も物理的にクリーンアップされます(睡眠中のアミロイドβなどの脳内老廃物の除去)。さらに、筋トレ直後には「**アドレナリン**」や「**ノルアドレナリン**」といった覚醒系の神経伝達物質が分泌され、脳は即座にシャープな状態になります。これに加えて、意欲や快楽に関わる「**ドーパミン**」の分泌も促進されるため、ポジティブな気分で一日のスタートを切ることができます。もちろん、集中力も持続するようになります。これは、後述する脳機能の根本的な強化(特に前頭前野の機能向上)と、セロトニンによる精神的な安定が組み合わさることで実現されます。
そうなれば仕事への意欲も湧いてきて、何ごとにも積極的に取り組めるようになります。この「意欲」は精神論だけではありません。筋トレによって適度に分泌が促される男性ホルモン「**テストステロン**」は、性別に関わらず、競争心、社会性、そして「何かを成し遂げたい」という意欲を高める効果があります。さらに重要なのが「**自己効力感(Self-efficacy)**」の向上です。筋トレは、「昨日上がらなかった重量が今日上がった」「先週は5回しかできなかったが今週は7回できた」というように、努力と成果が非常に明確に、かつ数値で現れます。この「やればできる」という小さな成功体験の積み重ねが、「自分は目標を達成できる人間だ」という揺るぎない自信、すなわち自己効力感を育みます。この感覚は、仕事における困難なプロジェクトや高い目標に対しても、「自分ならきっと解決できるはずだ」と前向きに取り組む姿勢に直結するのです。
疲労がたまった状態でミス連発、叱られて落ち込んでさらに不眠気味になる悪循環とはまさに逆で、好循環がまわりだします。慢性的な疲労やストレスは、「**コルチゾール**」というストレスホルモンを過剰に分泌させます。コルチゾールが常に高い状態(慢性ストレス状態)は、脳の海馬を萎縮させ、記憶力や集中力を低下させ、不眠やうつ状態を引き起こすことが知られています。筋トレは、短期的には物理的なストレス(良いストレス)を体に与えますが、その後の回復プロセスを通じて、ストレス応答システム(HPA軸)全体を鍛え上げます。これにより、日常の精神的なストレスに対する耐性(ストレスレジリエンス)が向上し、コルチゾールの過剰分泌が抑えられるようになります。いわば、筋トレは「ストレスに対するワクチン」のような役割も果たすのです。体調が良く、意欲に満ち、ストレス耐性も高まることで、仕事のパフォーマンスが上がり、評価され、さらに自信がつく…という理想的な「好循環」が生まれる基盤が整います。
さらに筋肉がついてくると、これを維持、あるいは増強したくなるのが人間です。
体調の良さ、見た目の変化、精神的な充実感を一度体感すると、それを失いたくないという動機が生まれます。そうすると定期的なトレーニングを欠かさなくなり、運動習慣が身に付いてメンタルも安定するはずです。この「メンタルの安定」にも明確な科学的根拠があります。前述のセロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、不安感を軽減し、精神的な落ち着きをもたらします。また、リズミカルな運動は、脳内のGABA(ギャバ、γ-アミノ酪酸)のレベルを高めることも示唆されています。GABAは脳の興奮を鎮める抑制系の神経伝達物質であり、リラックス効果や抗不安効果をもたらします。さらに、高強度のトレーニング後には「**エンドルフィン**」という脳内麻薬とも呼ばれる物質が分泌され、強い多幸感や鎮痛作用が得られることもあります(ランナーズハイと類似の現象)。これらの神経伝達物質が複合的に作用し、日々の気分の浮き沈みを抑え、安定したメンタル状態を維持しやすくするのです。この自己管理能力の向上は、仕事におけるタスク管理や時間管理、対人関係のストレス処理能力にもポジティブな影響を与えます。
▼筋トレはあなたの脳を活性化する
もっと言うと、筋肉をつけると頭がよくなると僕は思っています。いや、これは単なる個人の感想ではなく、現代の神経科学が強く支持する事実です。
ひと昔前は「マッチョは脳ミソも筋肉でできている」などと揶揄されることがありましたが、これは完全な偏見であり、科学的根拠のないステレオタイプです。むしろ事実は全く逆で、筋肉を鍛える運動プロセスは、脳の構造と機能そのものを強化することがわかっています。
脳の大脳皮質には「運動野」といって、体の動きを司る部分があることがあり、
脳が指令を出すからこそ私たちの体は動くことができます。しかし、この関係は一方通行ではありません。体を動かすと、筋肉や腱にある「固有受容性感覚器」から、「今、体がどういう状態にあるか」という膨大な情報がフィードバックとして常に脳に送り返されています。筋トレのように、複雑なフォームを意識し、特定の筋肉に負荷をかけ、バランスを取るといった高度な運動は、運動野だけでなく、運動の学習と調整を司る「小脳」や、運動の開始と制御を担う「大脳基底核」なども含めた、脳の広範なネットワークを総動員します。
つまり、体を動かせば脳に刺激が送られ、
体中にはりめぐらされた神経系統を通じて体から脳へ、
逆に脳から体へという指令の往復が、
脳内にあるニューロンという神経細胞どうしのつながりを太くし、
脳を活性化させてくれます。この「つながりが太くなる」現象は、「**神経可塑性(Neuroplasticity)**」と呼ばれます。繰り返し刺激が送られることで、神経細胞間の情報伝達効率が上がる(シナプス結合が強まる)のです。そして、この神経可塑性を強力に後押しする物質が、筋トレによって分泌されることが判明しています。
それが「**BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor:脳由来神経栄養因子)**」です。
BDNFは「脳の肥料」とも呼ばれるタンパク質で、既存の神経細胞の生存を助け、成長を促し、さらには新しい神経細胞の誕生(神経新生)や、新たな神経回路(シナプス)の形成を促進する、まさに脳を「育てる」ために不可欠な物質です。そして、このBDNFの分泌を最も効果的に高める活動の一つが、まさに運動(特に筋トレや有酸素運動)なのです。
つまり、筋トレという運動プロセスがBDNFの分泌を促し、それが脳の神経回路を増やし、強化する。その結果として頭もよくなる(脳機能が高まる)ということです。
(引用)
ハーバード大学医学大学院臨床精神医学准教授で、運動と脳の研究領域における
世界的権威である、ジョン・J・レイティ博士によれば、運動によって新たな脳細胞が増え、既存の脳細胞も活性化されることは明らかだという。
具体的には、記憶を司る「海馬」や、思考力、判断力、集中力、感情のコントロール力などを司る「前頭葉」の脳細胞の容量が増加する。
BDNFの効果は、脳の中でも特にこの「海馬」と「前頭葉(前頭前野)」で顕著に見られます。
**海馬 (Hippocampus)** は、新しい情報(今日の会議の内容、学習した知識など)を一時的に保存し、それを長期記憶として定着させる役割を担っています。海馬は加齢やストレス(高コルチゾール)によって萎縮しやすい部位ですが、BDNFは特にこの海馬での「神経新生(新しい神経細胞が生まれること)」を強力に促進します。つまり、筋トレは記憶の「保存庫」を物理的に強化し、新しいことの学習能力や記憶力を高めることに直結するのです。
**前頭葉 (Frontal Lobe)**、特にその前方にある「**前頭前野 (Prefrontal Cortex)**」は、人間を人間たらしめている最も高次な脳機能、すなわち「**実行機能(Executive Functions)**」を司る司令塔です。実行機能とは、計画を立てる、優先順位を決める、複雑な情報を一時的に保持して処理する(ワーキングメモリ)、目の前の誘惑に耐える(衝動の抑制)、感情をコントロールする、注意を適切に切り替える・持続させるといった能力群を指します。これらは、まさにビジネスの現場で日々求められる能力そのものです。筋トレによる血流の増加、BDNFによる神経回路の強化、そしてドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の最適化は、この前頭前野の働きを直接的にサポートします。
記憶力、思考力、判断力、集中力を司る脳の部位が発達するということは、すなわち「頭がよくなる」ということにほかならない。
複雑な問題に直面したとき、冷静に状況を分析し、複数の選択肢を評価し、最適な解決策を導き出し、それを実行に移す。この一連のプロセスは、まさに前頭前野の「実行機能」の集大成です。筋トレによって脳の神経基盤(ハードウェア)が強化され、神経伝達物質のバランス(ソフトウェア)が整うことで、これらの知的パフォーマンスが向上するのは、科学的な必然と言えるでしょう。
記憶にも新しいラグビー日本代表の福岡堅樹選手は29歳で現役を引退し、医師を目指して難関・順天堂大学医学部に合格しました。
どちらか一方でも快挙なことだが、どちらも成し遂げることができたのは、おそらく彼が運動も勉強も両方していたからだと私は思います。トップアスリートとして培った強靭なメンタルや自己管理能力はもちろんのこと、高度な運動学習(複雑な戦術の理解と実行)や、試合中の瞬時の判断(まさに前頭前野の機能)を通じて常に脳を活性化させてきた経験が、医学部受験という全く異なる分野での高度な知的作業においても、強力なアドバンテージとなった可能性は十分に考えられます。
このように、筋肉をつけること(筋力トレーニング)は、単なる肉体改造に留まりません。
第一に、**体調管理**の側面。血流改善とホルモンバランスの正常化により、睡眠の質が向上し、日中の疲労感が軽減され、エネルギッシュな状態を維持できます。
第二に、**メンタルヘルス**の側面。セロトニンやGABAなどの神経伝達物質が精神を安定させ、自己効力感の向上とストレス耐性の強化(コルチゾールの制御)が、困難な状況にも臆さない強靭なメンタルを育みます。
そして第三に、**脳機能の向上**。BDNFの分泌が海馬(記憶)と前頭前野(思考・判断・集中)の神経可塑性を高め、ビジネスパフォーマンスの根幹である「実行機能」を直接的に強化します。
これらは精神論ではなく、すべて体内で起きている神経科学的、内分泌学的な変化の結果なのです。高いパフォーマンスを維持し続ける多くの経営者やリーダーたちが、多忙な合間を縫ってトレーニングを習慣にしているのは、この計り知れない恩恵を合理的、あるいは体感的に理解しているからに他なりません。
★POINT 成功者の多くは筋トレをしている。これは真実だ。
筋肉食堂の食事内容を見てみる