2022.06.26

03 筋トレはランニングの“倍”痩せる

ジムでバーベルを担いでスクワットをする男性

筋トレはランニングの“倍”痩せる

本書の読者の多くは、バリバリ仕事をしているビジネスパーソンが多いと思います。
ひと昔前と違い、現代のビジネスは、極限までの「効率」と「生産性」を追求することが求められます。

長い時間頑張ったからといって、成果を出せなければ評価されないし、
同じ時間内でより多くの成果を出す人は、よりよいポジションを与えられます。時間は有限であり、投下した時間に対してどれだけのリターン(成果)を生み出せるか、その「ROI(投資対効果)」が個人の市場価値を決定すると言っても過言ではありません。

靴底をすり減らして営業していれば、
「あいつ頑張ってるな」と評価されたのはもう過去の話で、
今そういうことをしても「無駄な努力」「非効率」と切り捨てられ、
CRM(顧客関係管理)ツールを駆使し、データを分析し、1日何件ものオンライン商談で成約をとる人材に立場を奪われてしまうでしょう。ビジネスのあらゆる領域で、根性論から科学的アプローチへの移行が起きています。

 

これは、体づくりも同じことです。
多くの人が、多忙を極める日々のなかから、貴重な時間を捻出しているので、より生産的な方法、すなわち「最短時間で最大効果」を生むアプローチが求められます。

「痩せる」ことを目的とした場合、多くの人がランニングやジョギングといった「有酸素運動」を思い浮かべますが、最も効率的に「痩せやすく、太りにくい体」を作る方法は、筋トレ(レジスタンストレーニング)です。ここで言う「痩せる」とは、単に体重計の数字を減らすことではありません。体重が減っても、それが筋肉の減少によるものであれば、代謝が落ち、むしろ将来的に太りやすい体になってしまいます。真の「痩せる」とは、体脂肪を減らし、筋肉量を維持または増加させることによる「**体組成の劇的な改善**」を指します。

この「体組成の改善」という目的において、筋トレが有酸素運動よりも圧倒的に効率的であることは、単なる印象論ではなく、人体のエネルギー消費メカニズム、内分泌学(ホルモン学)、そして代謝学に基づいた明確な結論です。本記事では、なぜ筋トレがランニングよりも効率的なのか、その3つの主要な科学的根拠(「EPOC」、「基礎代謝」、および「ホルモン応答」)について詳しく解説します。


もっとも効率的なダイエット法は、筋トレです。

痩せるための運動というと、多くの人がランニングを思い浮かべるのではないでしょうか。ジムのトレッドミルは常に満員で、皇居の周りも多くのランナーで賑わっています。「脂肪を燃やす=有酸素運動」というイメージは非常に根強くあります。


しかし、これは「体組成の改善」という観点からは、最も効率的な方法とは言えません。むしろ、場合によっては非効率、あるいは逆効果にさえなり得ます。
もちろん、ランニングという行為そのものが悪いわけではありません。心肺機能(循環器系)の向上、毛細血管の発達、ミトコンドリア機能の改善、そして何よりメンタルヘルスやストレス解消には素晴らしい効果があります。しかし、「体脂肪を減らし、引き締まった体を作る」という目的においては、非常に効率が悪いということを知っておく必要があります。

 

▼ランニングが非効率である理由: 筋肉の異化と消費カロリーの限界

なぜ、あれほど多くの人が実践しているランニングが非効率なのでしょうか。それには大きく分けて二つの理由があります。

理由1: 筋肉の異化(カタボリック)のリスク

ランニングのような有酸素運動は、脂肪も削るが、筋肉も削ってしまうことはあまり知られていません。

人間の体は、長時間の運動(特に60分を超えるような持続的な有酸素運動)を行うと、エネルギー不足を補うために体内の糖(グリコーゲン)だけでなく、タンパク質(=筋肉)を分解してアミノ酸を取り出し、それを肝臓で糖に変換してエネルギー源として利用しようとします。これを「糖新生(とうしんせい)」と呼びます。体は血糖値を一定に保つことを最優先するため、手っ取り早くエネルギーに変換できる筋肉(アミノ酸)を分解してしまうのです。

さらに、長時間の運動はストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌を促進します。コルチゾールは、体内に貯蔵されているエネルギー(糖、脂肪、そしてタンパク質)を動員する役割を持つ重要なホルモンですが、その分泌が慢性的に高まると、筋肉の分解(異化・カタボリック)を強力に促す作用があります。「痩せるために長時間走れば走るほど、皮肉にも筋肉が失われていく」という事態に陥りがちです。マラソンランナーが非常にスリム(筋肉量が少ない)である一方、スプリンター(短距離走者)が非常に筋肉質であることからも、運動の種類が体に与える影響の違いは明らかです。

理由2: 消費カロリーの限界と「運動への適応」

詳しくは後述しますが、最も効率的に理想の体をつくる方法は、筋肉をつけ代謝を上げることだと思います。

ランニングは、その資本である筋肉をエネルギーとして消費してしまうのです。これは、痩せるために「貯金を切り崩す(脂肪を燃やす)」だけでなく、「給料を生み出す能力(筋肉=基礎代謝)」そのものを毀損しているようなものです。


また、タイムパフォーマンスという点でも、有酸素運動はあまり効率がよくありません。体重60kgの人が時速10kmで1時間ランニングしたと仮定しましょう。消費カロリーは計算上約600kcalです。これは立派な消費量ですが、時間も60分かかります。そして、この消費は「運動している間だけ」でほぼ終了します。

さらに厄介なのは、人間の体が持つ「**適応能力**」です。同じ負荷のランニングを続けると、体はエネルギー効率を高めようとします。つまり、徐々に「燃費の良い体」になっていき、同じ距離を走っても消費カロリーが少なくなっていくのです。これは、長距離を走るための生存戦略としては正しい適応ですが、体脂肪を減らしたいという目的からすると、効率が悪くなっていくことを意味します。

有酸素運動は運動をしている間しかカロリーを消費しないのに対し、筋トレはトレーニングで傷ついた筋肉を修復するときも、運動で消費したのと同じか、それ以上のカロリーを消費すると言われています。この「運動後」の消費こそが、筋トレの圧倒的な優位性を示す第一の鍵です。

 

▼科学的根拠①:EPOC(運動後過剰酸素消費量)の圧倒的な差

元の記事では「30分走って450kcal、筋トレも450kcal消費し、修復でさらに450kcal」と説明されていますが、これはメカニズムを分かりやすく説明するための一例です。実際のメカニズムはより複雑であり、その差はさらに決定的です。

運動後のカロリー消費は、専門的には「EPOC(Excess Post-Exercise Oxygen Consumption:運動後過剰酸素消費量)」と呼ばれます。日本語では「アフターバーン効果」とも呼ばれます。

これは、運動を終えた後も、体が「通常の状態(恒常性=ホメオスタシス)」に戻ろうとして、通常よりも多くの酸素を消費し、エネルギー(カロリー)を燃し続ける現象を指します。体は、高強度の運動によって生じた生理的な「乱れ」や「借金」を返済しようとするのです。

この「借金」には以下のようなものが含まれます。

  1. ATP-CP系(クレアチンリン酸)の再補充: 瞬発的な運動で消費されたエネルギー通貨の即時的な補充。
  2. 乳酸の代謝: 運動中に発生した乳酸を、肝臓でグリコーゲンに再合成する(コリ回路)ためのエネルギー。
  3. 体温の正常化: 上昇した深部体温を平熱に戻すためのエネルギー(発汗など)。
  4. 心拍数・呼吸数の正常化: 興奮した循環器系・呼吸器系を鎮めるためのエネルギー。
  5. ホルモンバランスの調整: アドレナリンやノルアドレナリンなど、運動中に分泌されたホルモンの代謝。
  6. そして最も重要な、損傷した筋線維の修復(タンパク質合成): 筋トレによって微細に損傷した筋線維を修復し、より強く太く作り変える(超回復)プロセス。これは非常にエネルギーを消費する作業です。

ランニングのような低~中強度の有酸素運動の場合、体への「乱れ」や「借金」は比較的小さいため、このEPOCは小さく、持続時間も短い(例:数十分~数時間)です。すぐに回復が完了します。

しかし、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなどの全身を使う高強度な筋力トレーニングや、短距離ダッシュのような高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、中枢神経系と筋肉に極めて大きな負荷をかけます。これにより、体は深刻な「借金」を負ったと判断し、EPOCは非常に大きく、かつ長時間(研究によっては24時間~48時間以上)持続することが示されています。

つまり、ランニングのカロリー消費が「走っている60分間」でほぼ終わるのに対し、筋トレのカロリー消費は「トレーニングの60分間」+「その後の24~48時間、デスクワーク中や睡眠中にも続くボーナスタイム」となるのです。

元の記事の例え(450kcal + 450kcal = 900kcal)は、「運動中」と「運動後(EPOC)」の両方でカロリーが消費されるという本質を捉えたものです。このEPOCこそが、筋トレが時間効率に優れる第一の理由です。週に2~3回の高強度トレーニングが、毎日ランニングするのと同等かそれ以上の脂肪減少効果をもたらす可能性があるのは、このためです。

 

▼科学的根拠②:最大の鍵「基礎代謝(BMR)」の永続的な向上

EPOCが「短~中期的」なボーナスカロリーだとすれば、筋トレには「永続的」な、そしてダイエットにおいて最も重要な恩恵があります。それが「基礎代謝(BMR:Basal Metabolic Rate)の向上」です。

基礎代謝とは、人間が生命を維持するために、何もせず安静にしている状態(呼吸、心拍、体温維持、細胞の入れ替えなど)で消費される最小限のエネルギーのことです。驚くべきことに、一日の総消費カロリーのうち、約60%~70%をこの基礎代謝が占めています(活動量によります)。

そして、この基礎代謝を左右する最大の要因が「除脂肪体重(Lean Body Mass)」、その中でも特に「筋肉量(骨格筋量)」です。

体脂肪は、エネルギーの「貯蔵庫」ではありますが、それ自体はほとんどカロリーを消費しません(脂肪1kgあたり約4kcal/日程度)。
一方、筋肉は、維持するだけでエネルギーを消費する「代謝的に非常に活性な組織」です。筋肉1kgあたりの安静時代謝量は約13kcal/日と見積もられることが多いですが、これはあくまで「安静時」の話です。実際には、筋肉は修復プロセス、活動時のエネルギー消費、さらには後述するマイオカインの分泌など、安静時以外にも多くのエネルギーを要求するため、筋肉が1kg増えることによる1日の総消費カロリーへの影響は、50kcal以上に達するという試算もあります。

ここで、ランニングと筋トレを長期的な視点で比較してみましょう。

  • ランニング(有酸素運動): 前述の通り、筋肉を増やす効果はほぼ期待できず、むしろ長時間の実施は筋肉を分解(カタボリック)させるリスクがあります。最悪の場合、体重は減っても筋肉も減り、基礎代謝が低下して「痩せにくく太りやすい体」になってしまいます。
  • 筋トレ(無酸素運動): 筋肉に負荷をかけて意図的に破壊し、それを栄養と休養によって超回復させることで、筋肉を成長(アナボリック)させます。

仮に、筋トレによって筋肉が3kg増えたとします。控えめに見積もっても(安静時13kcal + 活動分)、基礎代謝は1日あたり約50kcal~100kcal向上する可能性があります。仮に1日あたり72kcal向上したとしましょう。これは、1年間で 72kcal x 365日 = 26,280kcal に相当します。体脂肪1kgが約7,200kcalですから、筋肉を3kg増やすだけで、何もしなくても年間約3.65kgの体脂肪を燃やし続ける「痩せ体質」を手に入れられる計算になります。

ランニングは「運動した時間だけ」カロリーを消費する「労働集約型」のダイエットです。サボれば、消費カロリーはゼロに戻ります。
筋トレは「筋肉という資産」を構築し、その資産が24時間365日、あなたが寝ている間も働いている間も自動的にカロリーを生み出し続ける「資産運用型」のダイエットです。これはまさに、時間の「複利効果」です。

寝ている時間を脂肪燃焼に充当できる、という元の記事の指摘は、EPOCだけでなく、この基礎代謝の向上という側面からも科学的な真実なのです。

 

▼科学的根拠③:体組成を変えるホルモンとインスリン感受性

筋トレの優位性は、カロリー消費の側面だけでなく、体内の「ホルモンバランス」を根本から変える点にもあります。これが、筋トレが「太りにくい体」を作る最大の理由かもしれません。

1. 成長ホルモンとテストステロン(アナボリックホルモン)
高強度の筋トレ(特に多くの筋肉を動員するスクワットやデッドリフト)は、「成長ホルモン(HGH)」「テストステロン」といった、いわゆる「アナボリック(筋肉合成)ホルモン」の分泌を強力に促進します。これらのホルモンは、筋肉の合成を促すだけでなく、体脂肪の分解(脂質動員)を直接的に促進する働きも持っています。特に成長ホルモンは、夜間の睡眠中に脂肪をエネルギーとして使うよう体に指令を出す重要な役割を担っています。筋トレは「筋肉を増やし、脂肪を減らす」という、体組成改善に最も理想的なホルモン環境を体内に作り出します。(対照的に、長時間の有酸素運動はコルチゾールというカタボリックホルモンを優位にします。)

2. インスリン感受性の劇的な改善
これが最も重要なポイントの一つです。筋トレは「血糖値コントロール」にも絶大な効果を発揮します。筋肉は、体内のブドウ糖(血糖)の最大の「貯蔵庫(筋グリコーゲン)」です。全身の糖の約7~8割は筋肉に取り込まれます。食事で糖質を摂ると血糖値が上がりますが、それを下げるために膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは、糖を細胞に取り込ませる「鍵」の役割を果たします。

しかし、運動不足や糖質の過剰摂取が続くと、細胞(特に筋肉)の「鍵穴」が鈍くなり、インスリンが効きにくくなります(=**インスリン抵抗性**)。すると、糖は細胞に入れず血中に溢れ、血糖値が下がらないため、体はさらにインスリンを大量分泌します。そして、行き場を失った大量の糖は、最終的にインスリンの命令によって「体脂肪」として蓄積されてしまいます。これが「太る」メカニズムの核心です。

筋トレは、このインスリン抵抗性を劇的に改善します。
まず、筋トレで筋肉内のグリコーゲンを使い果たすと、筋肉は「糖に飢えた状態」になります。これにより、食事から入ってきた糖を必死で筋肉内に取り込もうとします。さらに、筋収縮そのものが、インスリンとは別の経路(インスリン非依存的糖輸送)でも糖の取り込みを促進します。これにより、インスリンの効き目が非常に良くなる(=**インスリン感受性が高まる**)のです。

インスリン感受性が高い体は、食べた糖質が体脂肪として蓄積されにくく、優先的に筋肉のエネルギー源や回復(グリコーゲン補充)に使われるようになります。これはまさに「太りにくい体」そのものです。

3. マイオカイン(筋肉からのメッセージ物質)
近年の研究では、筋肉は単なる運動器官ではなく、様々な生理活性物質を分泌する「内分泌器官」であることがわかっています。筋肉から分泌されるこれらの物質を総称して「**マイオカイン**」と呼びます。筋トレによって分泌されるマイオカイン(イリシン、IL-6など)は、脂肪細胞に働きかけて褐色化(=エネルギーを燃焼しやすい脂肪)を促したり、全身の慢性炎症を抑えたり、インスリン感受性を改善したりと、全身の健康と代謝に多大な好影響を与えることがわかってきています。

 


これまで、仕事で忙しいなか、苦労して1時間のランニングの時間を捻出していた人は、その時間を30分の高強度筋トレに充てるほうが、はるかに効率よく痩せられることは言うまでもありません。

ランニングは「カロリーを消費する」行為ですが、筋トレは「①運動中にカロリーを消費し、②運動後24~48時間(EPOC)もカロリーを消費し続け、③筋肉という資産を増やして永続的な基礎代謝を向上させ、④ホルモンバランスを改善して太りにくい体へと作り変える」行為です。

その効果は、単なる運動中の消費カロリー比較では測れず、文字通り「倍」以上の価値をもたらします。筋トレは、あなたの体づくりにかかる時間を大幅に圧縮し、貴重な時間をビジネスや家族、趣味といった、より重要なことに使うことを可能にしてくれます。
筋トレはあなたの人生をより豊かなものに寄与すること間違いありません。

 

★POINT  仕事だけでなく、体づくりでも生産性を追求しよう。

筋肉食堂の食事内容を見てみる