2022.06.26

05 基礎代謝を上げて 「寝ているだけで痩せる」体をつくり上げろ

基礎代謝を上げて「寝ているだけで痩せる」体をつくり上げろ


先ほどの記事(ID 4)で、食べたものをエネルギーに変換するのが「代謝」であり、その「エンジン」の大きさが重要であると解説しました。では、そのエンジン、すなわち「代謝」は、私たちの体のどこで主に行われているか、ご存じですか。

実は、その「エンジンの大きさ=代謝の活発さ」を、私たちが唯一、意図的にコントロールできる器官が「筋肉」です。

(厳密には、肝臓や脳、心臓なども安静時に多くのエネルギーを消費しますが、これらの内臓のサイズや活動量を意図的に増やすことはできません。私たちが唯一、増量させることができる「代謝的に活発な組織」が筋肉なのです。)

筋肉量の多い人はそのぶん代謝が盛んになるので、太りにくく痩せやすい体を持ち合わせているということになります。

しかし、なぜ筋肉量が多いと、運動していない時(例えば「寝ている時」)でもエネルギーを消費するのでしょうか。そのメカニズムを深く理解することが、効率的な体づくりへの最短ルートとなります。

 

▼「基礎代謝」とは何か?

みなさん、「基礎代謝(BMR: Basal Metabolic Rate)」という言葉を聞いたことはありますか。
最近は、体重計などにも基礎代謝を測定できる機能があるため、ご存じの読者が大半だと思います。

私たちの体は、運動しているとき以外にも、心臓を動かしたり、胃や腸で食べてものを消化したり、呼吸をしたり、体温調節をしたりといった、生命維持活動にもエネルギーを使っています。

この生きていくために最低限必要なエネルギー量を「基礎代謝」と呼びます。

この基礎代謝は、一日の総消費カロリー(TDEE)の約60%~70%を占める、最大のエネルギー消費源です。つまり、このBMRを高めることこそが、「痩せやすい体」を作る上で最も重要なのです。

 

▼筋肉が基礎代謝を上げる本当の理由:タンパク質の「代謝回転」

筋肉がつくと、基礎代謝が上がる。
つまり、寝ているときでもより多くのカロリーを消費することができるようになります。

なぜでしょうか。よく「筋肉1kgあたり13kcal/日」といった数値が言われますが、これは誤解を招くほど低い数値です。この数値は、筋肉を「ただそこにある物体」として静的に見た場合の消費量に過ぎません。

筋肉の本当のエネルギー消費は、その「活動性」にあります。筋肉は、24時間365日、常に「分解(MPB: 筋タンパク質分解)」と「合成(MPS: 筋タンパク質合成)」を繰り返しています。これを「タンパク質の代謝回転(プロテイン・ターンオーバー)」と呼びます。

古いレンガ(劣化したタンパク質)を取り除き、新しいレンガ(新しいタンパク質)を積み直す作業が、寝ている間も常に行われていると想像してください。この「リモデリング作業」は、非常にエネルギーを消費します。

筋トレを行うと、この代謝回転がさらに活発になります。トレーニングによって意図的に筋肉を(微細に)破壊することで、体は「より強く、より大きな筋肉を再構築しなければならない」というシグナルを受け取ります。その結果、トレーニング後24~48時間(場合によっては72時間)にわたり、MPSがMPBを上回る状態(アナボリック)が続き、その修復作業のために莫大なエネルギー(カロリー)が消費され続けるのです。

これが、ID 3で触れた「EPOC(運動後過剰酸素消費量)」の主要な構成要素であり、基礎代謝そのものを持続的に押し上げる要因です。筋肉は「静的な組織」ではなく、「動的な代謝工場」なのです。

 

▼代謝の「工場」:ミトコンドリアの密度

筋肉がエネルギーを消費するもう一つの理由は、細胞内の「エネルギー生産工場」である「ミトコンドリア」の存在です。

ミトコンドリアは、私たちが食べた糖質や脂質を、酸素を使って「ATP」というエネルギー通貨に変換する場所です。筋トレ(特に持久的な要素も含むトレーニング)は、このミトコンドリアの「数」と「質」を高めます。

筋肉量が多い、あるいはよくトレーニングされた筋肉は、ミトコンドリアが高密度に詰め込まれた「高性能なエンジン」となっています。基礎代謝が高い体とは、この高性能なエンジンが、アイドリング中(寝ている時)でも効率よくエネルギー(特に脂肪)を燃やして熱を産生している状態を指します。

「寝ているだけで痩せる」

筋肉をつけて、基礎代謝を上げる(=タンパク質代謝回転を活発にし、ミトコンドリア密度を高める)と、こんな夢のようなことが可能になります。控えめな試算でも、筋肉を1kg増やすことによる総代謝への影響(直接的な消費+代謝回転のコスト+関連するホルモン変化)は、1日あたり50kcal~100kcalにも上ると言われています。年間では、それだけで体脂肪3kg~5kg分に相当するカロリーが自動的に消費されていく計算になります。

 


▼「痩せたい人」と「大きくなりたい人」:両方に効く代謝の力

「基礎代謝が高い」という状態は、「痩せたい人(ダイエット)」にも「大きくなりたい人(バルクアップ)」にも、それぞれの目標達成に不可欠な土台となります。

1. 痩せたい人(ダイエット)

これは分かりやすいでしょう。BMRが高い(=アイドリング時の消費カロリーが多い)ため、食事制限が非常に楽になります。BMRが1200kcalの人が1500kcal食べると太りますが、BMRが1800kcalの人が1500kcal食べると、何もしなくても痩せていきます。

2. 大きくなりたい人(バルクアップ)

「私は痩せたいのではなく、筋肉をつけて体を大きくしたいんだ」という人もいると思います。
実はこの場合も、代謝をよくするのが近道なのです。

いままで体を大きくしたくて、たくさん食べようとしても、食が細くて量を食べられなかったという人も、筋肉をつければ代謝が上がるのでお腹が空きやすくなり、どんどん食べられるようになります。

これは、体が常にエネルギー(特に修復材料)を欲しているため、食欲増進ホルモン(グレリンなど)が適切に分泌されるようになるからです。

 

▼鍵は「栄養分配(Nutrient Partitioning)」

バルクアップにおける高代謝の最大の利点は、「栄養分配(Nutrient Partitioning)」の最適化です。

栄養分配とは、食べたカロリー(特に糖質や脂質)が、「筋肉の合成」に使われるか、それとも「体脂肪の蓄積」に使われるか、その「振り分け」のことを指します。

代謝が低い(筋肉が少なく、インスリン感受性が低い)状態でカロリーを過剰摂取すると、そのほとんどは「体脂肪」に振り分けられます。これが「ただ太る」状態です。

しかし、代謝が高い(筋肉が多く、活発な代謝回転が行われ、インスリン感受性が高い)状態でカロリーを過剰摂取すると、体は「今こそ筋肉を修復・成長させるチャンスだ!」と判断します。その結果、摂取したカロリーは優先的に「筋肉の修復・合成(MPS)」へと振り分けられます。

食が進めばどんどん使用重量も挙がりトレーニング効果も増し、筋肉がついて、どんどん体を大きくすることができます。

筋肉をつける→代謝が上がる→(栄養分配が最適化され)食べられる量が増える→より重量を挙げられる→より筋肉がつく

という、理想的なサイクルが回りはじめます。

つまり筋肉をつけて体を大きくするにせよ、スリムになるにせよ、筋肉をつけて
基礎代謝を上げること(=エネルギーを適切に処理・分配できる体を作ること)が一番大事なんです。

 

★POINT 理想の体をつくるPDCAサイクルを回せ。

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