2022.06.26
06 筋トレは食事が9割。
筋トレは食事が9割。
私は前職でトレーナーとして、大勢の方々を指導してきました。
そのなかにはタレントや俳優など表舞台(人前)に出る仕事をしている方もいらっしゃって、そんな方は特に真剣に体づくりに取り組んでいました。
それなのに、すぐに結果が出る人と、そうでない人がいます。
私の見たところ、結果が出やすい人は、私のアドバイスにしたがって食事も改善し、それを継続していました。
一方で、なかなか結果が出ない人は、運動だけ頑張って、食事を軽視する傾向があったように思います。
諸説ありますが、私は体を変えるのに果たす役割は、
運動が1割、食事が9割だと思っています。
これは、運動が重要でないという意味では決してありません。むしろ逆です。
運動(筋トレ)は、体を変えるための「スイッチ」であり、「設計図」です。このスイッチが押されなければ、体が変わる(筋肉がつく・代謝が上がる)きっかけすら生まれません。
しかし、スイッチを押した(運動した)後に、体を作るための「材料」(=栄養)が不足していれば、設計図はあっても家は建ちません。運動という「1割」の起爆剤を100%活かすために、食事という「9割」の材料と環境整備が不可欠なのです。
たとえば、社会人が運動に使える時間はそう多くないと思います。
ジムに熱心に通っている人でも、週に2~3回行ければいい方なのではないでしょうか。
しかし食事は1日3回、1週間なら21回。圧倒的に食事のほうが、回数が多い。
それだけ、体を変えるチャンスが多いと私は考えます。
この「21回のチャンス」という考え方は非常に重要です。週2回のトレーニングは「筋肉を作れ」というシグナルを送る行為ですが、残りの21回の食事がそのシグナルをサポートする(=タンパク質を供給し、筋肉の合成を促す)ものでなければ、体は変わるチャンスを逃し続けます。最悪の場合、栄養不足の食事が、せっかくのトレーニング効果を打ち消してしまうことさえあるのです。
このことからも、食事がいかに重要かということをお分かりいただけるかと思います。
▼まずは食事に対する意識改革から:「食べ物」=「体の材料」
いま、あなたはどのくらい食事に気を遣っていますか。
「その日の気分で好きなものを食べている」
「何も考えずに家族が用意してくれたものを食べるだけ」
こんな人は、是非ここで意識改革をしていただきたい。
体を変えたいと願うなら、食べ物を「快楽」や「空腹を満たすもの」としてだけ捉えるのではなく、「自分の体を作り変えるための、唯一の材料」として認識し直す必要があります。車にガソリン(エネルギー)が必要なように、体の修復と構築には「材料」が必要であり、それを外部から取り入れる手段が「食事」なのです。
「食べる筋トレ」においては、「高タンパク」の食事が基本とし、
もっとわかりやすくいうと、
「いままでよりも、意識してたくさんタンパク質を食べる」ということです。
タンパク質自体には、体を動かすエネルギーになる力はお米(糖質)や油(脂質)などに比べるとあまりありません。
しかし、人間の体を合成する唯一の栄養素がタンパク質(を分解したアミノ酸)です。
爪も髪も肌も、そして筋肉も、タンパク質からできています。
筋肉を増やしたいのであれば、その原料であるタンパク質を食べるのがいちばん効率的です。
▼なぜタンパク質が最重要なのか? (1) 筋肉の合成スイッチ「ロイシン」
筋トレをして筋肉が大きくなるプロセスを「筋肥大」と呼びますが、これは専門的には「筋タンパク質合成(MPS: Muscle Protein Synthesis)」が「筋タンパク質分解(MPB)」を上回ることで起こります。
筋トレは、このMPSの感度を高める「スイッチ」です。そして、食事から摂取するタンパク質(アミノ酸)は、MPSを実行するための「材料」であると同時に、合成を開始させる「キー(鍵)」でもあります。
特に重要なのが、タンパク質に含まれる必須アミノ酸の一つである「ロイシン(Leucine)」です。ロイシンは、体内で「mTOR(エムトール)」と呼ばれるシグナル伝達経路を活性化させ、「今だ!筋肉の合成を開始せよ!」という直接的な指令を出します。これが「ロイシン・トリガー」と呼ばれる現象です。
血中のロイシン濃度が一定の閾値(いきち)を超える(=十分な量のタンパク質を一度に摂取する)ことで、このスイッチが強力にONになります。逆に、タンパク質が不足したり、食事を小分けにしすぎたりすると、ロイシン濃度が閾値に達せず、せっかく筋トレをしてもMPSのスイッチが効率よく押されないのです。
これが「意識してたくさんタンパク質を食べる」べき、科学的な理由の一つです。
▼なぜタンパク質が最重要なのか? (2) 健康とメンタルの基盤
タンパク質が不足すると、筋肉だけでなく内臓や血管の働きも弱くなってしまいます。
さらに、髪が細くパサパサになって切れやすくなったり、肌に艶がなくなって老けて見えたりもします。
これは、タンパク質の役割が筋肉の構築だけに留まらないからです。
- 酵素とホルモンの材料: 体内の化学反応を仲介する「酵素」や、インスリン、成長ホルモンといった「ホルモン」もタンパク質から作られています。これらが不足すれば、当然、代謝は正常に機能しません。
- 免疫機能の維持: ウイルスや細菌と戦う「抗体(免疫グロブリン)」もタンパク質です。タンパク質が不足すると、免疫力が低下し、体調を崩しやすくなります。
- メンタルの安定: 脳内の神経伝達物質、例えば、やる気を司る「ドーパミン」や、精神を安定させる「セロトニン(幸福ホルモン)」も、食事から摂取したアミノ酸(チロシンやトリプトファン)を原料としています。タンパク質不足が、集中力の低下や気分の落ち込みに直結することもあるのです。
筋肉という視点だけではなくアンチエイジング、そして健康的な生活の基盤という観点からも、タンパク質をもっと摂取すべきだと思います。
▼「脂肪を落とす」時こそ、食事が9割の真価が問われる
私自身の経験から言っても、筋トレだけで脂肪を落とすのはかなり難しいと思っています。
体脂肪を落とす(ダイエットする)ための大原則は、「消費カロリー > 摂取カロリー」(カロリーデフィシット)の状態を作ることです。筋トレはこの「消費カロリー」を増やす助けにはなりますが、それだけで巨大なデフィシットを作るのは困難です(例:30分の激しい筋トレ消費は200~300kcal程度)。
ただ食事も同時に気をつけると、それだけで効果は倍増し、あっという間に脂肪が消えていきます。
なぜでしょうか。それは、カロリーデフィシット(食事制限)の状況下で、「高タンパク食」が以下の3つの決定的な役割を果たすからです。
1. 筋肉の維持(基礎代謝の維持)
カロリーデフィシットの状態では、体はエネルギー不足を補うため、脂肪だけでなく「筋肉」も分解してエネルギー源にしようとします(カタボリック)。もし食事制限だけで痩せると、筋肉が減り、基礎代謝(ID 5参照)が低下し、リバウンドしやすい「痩せにくい体」になってしまいます。
しかし、デフィシット下で「筋トレ」を行い、かつ「高タンパク食」を摂取すると、体は「筋肉は必要だ!」と認識し、筋肉の分解を最小限に抑えようとします。その結果、エネルギー源として「体脂肪」が優先的に使われるようになります。これが「綺麗に痩せる」の正体です。
2. TEF(食事誘発性熱産生)の高さ
タンパク質は、他の栄養素に比べて消化・吸収に使われるエネルギー(TEF)が最も高い栄養素です(ID 4参照)。摂取カロリーの約30%がTEFとして消費されます。つまり、タンパク質を多く食べるだけで、1日の総消費カロリーが自動的に増加するのです。
3. 圧倒的な満腹感(食欲の抑制)
ダイエットが失敗する最大の理由は「空腹感」です。タンパク質は、PYYやGLP-1といった満腹感を高めるホルモンの分泌を促し、逆にグレリンといった空腹ホルモンの分泌を抑制します。高タンパク食は、食事制限に伴う苦痛な空腹感を和らげ、ダイエットの継続を精神的にサポートしてくれます。
ジムに通うのももちろん素晴らしいのですが、より早く体を変えていきたいのなら、本気で食事を改善してほしいと思っています。
運動(1割)という「スイッチ」を押し、食事(9割)という「材料」を供給し続けること。それが働きながら理想の体に近づく早道だと思います。
★POINT 食事を軽視すると、トレーニングの効果は半減する。(どころか、ゼロになる可能性もある)
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