2022.06.26
10 トレーニーの必須知識「アミノ酸スコア」ってなんだ?
トレーニーの必須知識「アミノ酸スコア」ってなんだ?
さて、ここからはいよいよ具体的な食材について説明していきます。
これまでの記事で、タンパク質の「量」がいかに重要か(ID 7)、そしてそれを「投資」として「選択」することの重要性(ID 8, 9)を解説してきました。ここでは、最後のピースであるタンパク質の「質」について、深く掘り下げます。
その前に、タンパク質を選ぶ目安である、「アミノ酸スコア」についてお伝えします。
少し専門的な話になりますが、タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されています。
そのうち体内で合成できないアミノ酸が9種類あり、「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」「トレオニン」「リシン」「メチオニン」「フェニルアラニン」「トリプトファン」「ヒスチジン」というアミノ酸がそれです。
これら「必須アミノ酸(EAA: Essential Amino Acids)」は、体内で合成できないので、食品から摂取するしかありません。
実は、この9種類の必須アミノ酸がすべてそろわないと体内で十分なタンパク質が生成されません。
だからその食材に必須アミノ酸がどれくらいバランスよく含まれているかが大事になってきます。
それらを示す数値のことを「アミノ酸スコア」といいます。
ちなみに、アミノ酸スコアは100が上限で、この値が高いほど、同じ量を食べても筋肉がつきやすいということになります。
▼「アミノ酸の桶(おけ)」と「制限アミノ酸」の理論
なぜ「すべてそろわないと」生成されないのでしょうか。これは「アミノ酸の桶の理論」(あるいは「ドベネックの桶」)で説明できます。
想像してみてください。9枚の板(9種類の必須アミノ酸)で作られた桶があります。この桶に水(=体内で合成されるタンパク質)を注ぎます。もし、9枚の板の高さがすべて揃っていれば、桶の容量いっぱいに水が溜まります。これが「アミノ酸スコア100」の状態です。
では、もし「リシン」という板だけが、他の板の半分の高さしかなかったらどうなるでしょうか。水は、その最も低い「リシン」の板の高さまでしか溜まらず、それ以上注いだ水(=他の8種類のアミノ酸)は、すべて桶から溢れて流れ出てしまいます。
この最も低い板のことを「第一制限アミノ酸」と呼びます。体内でタンパク質が合成される際、この「制限アミノ酸」が尽きた時点で、他のアミノ酸がどれだけ豊富にあっても、合成はストップしてしまうのです。そして、使われなかったアミノ酸は「ゴミ」として(窒素化合物として)処理されるか、単なるエネルギー源として燃やされてしまいます。
アミノ酸スコアとは、この「桶の歪み」を数値化したものです。スコアが低い(例:70)ということは、その食品を100g食べても、実質的に70g分のタンパク質しか体に利用されない(=30g分はムダになる)可能性があることを示しています。
▼より正確な指標:AASから「DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)」へ
アミノ酸スコア(AAS)は長らく「質」の指標とされてきましたが、近年では、より進化した「DIAAS(Digestible Indispensable Amino Acid Score:消化性必須アミノ酸スコア)」が新しい国際基準として推奨されています。
両者の違いは何でしょうか?
- AAS(アミノ酸スコア): 食品に「含まれている」アミノ酸の量を測ります。しかし、それが「体に吸収されたか」までは考慮しません。
- DIAAS(新スコア): 食品が小腸の末端(回腸)で「どれだけ消化・吸収されたか」を基準にします。
なぜこれが重要かというと、植物性タンパク質(特に豆類や穀物)には「抗栄養素」(フィチン酸、レクチンなど)が含まれることがあり、これがタンパク質の消化吸収をわずかに妨げる(=吸収率を下げる)可能性があるからです。DIAASは、この「真の吸収率」を反映した、より実践的なスコアです。
例えば、アミノ酸スコアでは「大豆=100」ですが、DIAASで測ると、動物性(ホエイ、卵、牛乳=100超)よりわずかに低い数値(80~90台)が出ることがあります。これは、大豆が劣っているという意味ではなく、「吸収率まで考慮すると、動物性のほうがやや効率的である」ことを示しています。
▼動物性タンパク質の9割は、アミノ酸スコア100
牛肉、鶏肉、豚肉などの食肉。マグロやアジなどの魚、卵など、動物性タンパク質のアミノ酸スコアは、ほぼ100になっています。(DIAASでも非常に高い数値を維持します)
これは、動物の体組織(筋肉や卵)が、人間の体組織とアミノ酸構成が非常に似ているため、当然と言えます。筋肥大において、動物性タンパク質が「効率的」または「イージーモード」と言われるのは、このためです。
さらに、ID 6やID 7でも触れましたが、筋肥大には「桶の理論(バランス)」の他にもう一つ、重要な要素があります。それが、筋タンパク質合成(MPS)の「開始スイッチ」である「ロイシン」の量です。
動物性タンパク質(特にホエイプロテイン、鶏肉、牛肉)は、この「ロイシン」の含有量が植物性に比べて多い傾向があります。つまり、動物性タンパク質は、「材料(アミノ酸スコア100)」が揃っているだけでなく、合成を開始させる「スイッチ(ロイシン)」を押す力も強い、という二重のメリットを持っているのです。
▼植物性タンパク質と「相補効果(Complementation)」
一方、野菜類などの植物性タンパク質は、大豆など一部を除いてアミノ酸スコアが低い傾向があります。
ということは、「植物性タンパク質を食べても十分にタンパク質を生成できないのでは?」と思うかもしれませんが、植物性タンパク質でも筋肉はつきます。
ここで「アミノ酸の桶」の理論に戻ります。
いろいろな種類の植物性タンパク質を組み合わせることで、必須アミノ酸のバランスが整うからです。
これを「アミノ酸の相補効果」と呼びます。最も有名で、人類が何千年もの間、経験的に行ってきた組み合わせが**「穀物+豆類」**です。
- 穀物(例:お米、パン、トウモロコシ):
- 桶の板の高さは全体的に高いですが、「リシン(リジン)」という板だけが極端に低い。
- → 制限アミノ酸=リシン
- 豆類(例:大豆、インゲン豆、レンズ豆):
- 「リシン」の板は非常に高いですが、代わりに「メチオニン」という板が低い。
- → 制限アミノ酸=メチオニン
お米だけを食べると、「リシン」が不足して桶から水が溢れます。豆だけを食べると、「メチオニン」が不足して水が溢れます。しかし、お米と豆を「一緒の食事で」食べるとどうなるでしょうか?
豆が不足している「メチオニン」を、お米が補います。
お米が不足している「リシン」を、豆が補います。
結果として、お互いの弱点を完璧に補い合い、9枚すべての板が高い、アミノ酸スコア100の「完璧な桶」が完成します。和食の「ご飯と納豆(味噌汁)」、メキシコの「タコス(トウモロコシ)とビーンズ」、インドの「ダール(豆カレー)とライス」は、全てこの相補効果を最大化する、非常に合理的な組み合わせなのです。
たとえば陸上のカール・ルイスは菜食主義として有名ですが、立派な筋肉のついた体で世界記録を樹立しています。彼は、この「相補効果」を熟知し、穀物、豆類、ナッツ類、種子類を戦略的に組み合わせて食べることで、動物性タンパク質に匹敵する「質」と「量」を確保していたのです。
また、牛肉や豚肉は部位によって脂肪など余分なものも多いことがあるので、動物性タンパク質ばかりとっているとカロリー過多になるリスクもあります。
一方、植物性タンパク質のなかでも、大豆や大豆加工品のアミノ酸スコアは100です。
しかし、豆類には糖質も多い。
このように、全ての食材には一長一短があります。
僕自身も、動物性タンパク質と植物性タンパク質をとり交ぜながら摂取するように意識していいます。例えば、鶏ムネ肉(動物性)とブロッコリー(植物性だがタンパク質も含む)、あるいはサーモン(動物性)とキヌア(植物性だがスコアが高い)のように、です。
そう考えると、大切なのは、各食材の特徴についての知識を蓄えて、それをもとにさまざまな食材からタンパク質を摂取することだと思います。
動物性タンパク質は「効率」と「ロイシン」に優れ、植物性タンパク質は「食物繊維」や「抗酸化物質(ファイトケミカル)」に優れます。両方の長所を取り入れることが、筋肥大、パフォーマンス向上、そして長期的な健康の維持にとって、最も賢明な「選択」です。
次項からは、タンパク質を豊富に含む食材とその特徴を1つずつ紹介していきます。
★POINT タンパク質はさまざまな食品から摂取するのが理想の形。
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