2022.06.26
11 ササミとムネ肉。食べるならどっち? ササミが、ベストプラクティスではない!? 鶏ムネ肉が最強食材である理由
ササミとムネ肉。食べるならどっち?ササミが、ベストプラクティスではない!?鶏ムネ肉が最強食材である理由
昔から、ボディビルダーたちのあいだでは、
「筋肉をつけたいなら鶏肉がベスト」と言われてきました。
なぜなら鶏肉は、高タンパク・低カロリーのお手本のような食品だからです。前章で解説したアミノ酸スコアはもちろん100。PFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)の観点から見ても、炭水化物がほぼゼロで、タンパク質の塊と言える、まさに体づくりのための「資材」の王様です。
そんな鶏肉のなかでも特におすすめの部位は「ササミ」というのが長い間、定説でした。
これは、ボディビルディングの世界で「脂質は可能な限りゼロに近づけるべき」というストイックな考え方が主流だった時代の名残です。脂質を悪魔のように扱っていた時代、最も脂質が少ない部位こそが至高とされたのです。
タンパク質の含有率は、皮なしの場合、どちらも100グラム中、約23グラムとほぼ同じです。しかし、ムネ肉は100グラム中、脂質が1.9グラムあるのに対し、ササミは0.8グラム。その差、わずか1.1グラム。
鶏肉のなかでも最も脂質が少ないのがササミだからです。このわずか1.1g(約10kcal)の脂質を削るために、多くのトレーニーがササミを選んできました。
ちなみに、モモ肉は鶏肉のなかで最も脂肪が多く、皮つき肉の脂質は19グラムになります(ただし、皮を取り除けば4.8グラムに減る)。モモ肉は「赤身」に分類され、鉄分やビタミンB群も豊富ですが、こと「高タンパク・低脂質」のチャンピオンシップにおいては、ムネ肉やササミに軍配が上がります。
しかし、私はどちらかというと、ムネ肉を推奨しています。
現代の栄養学の観点、そして特に多忙なビジネスパーソンの視点から見ると、ササミの「脂質1.1gの優位性」は、ムネ肉が持つ他の圧倒的なメリットの前には、取るに足らない差であると断言できるからです。
その最大の理由は、ムネ肉には疲労回復に役立つ成分が含まれているからです。
渡り鳥は何千キロも、何日間も眠らずに飛び続けることができます。
人間には到底、不可能な芸当です。
そんなことができるのは、翼を動かし続ける筋肉(ムネ肉)に「イミダペプチド(イミダゾールジペプチド)」という物質が、信じられないほどの高濃度で含まれているからだと言います。イミダペプチドは、アンセリンとカルノシンという2つのアミノ酸が結合したもので、地球上で最も強力な「抗酸化物質」の一つとされています。
激しい運動(筋トレ)や、過度なストレス、長時間のデスクワーク(知的労働)は、体内に「**活性酸素(ROS)**」を発生させます。これが細胞を酸化させ、傷つける「**酸化ストレス**」こそが、私たちが感じる「疲労」の最大の原因です。そして、イミダペプチドは、この活性酸素が発生する「まさにその場所」(筋肉や脳)で、それを無力化する働きを持っています。
このイミダペプチドは、われわれ人間の疲労回復にも威力を発揮することがわかっています。
ニワトリは、渡り鳥ではないですが、そのムネ肉にもイミダペプチドは豊富に含まれています(ササミにも含まれますが、含有量ではムネ肉の方が優位であるという研究結果が主流です)。
筋トレをした後に、ムネ肉を食べると、
イミダペプチドの効果で疲れが早くとれるということです。
これは、筋トレによる「**肉体的な疲労**」だけでなく、ビジネスパーソンが日々直面する「**精神的な疲労(脳疲労)**」の軽減にも寄与する可能性が非常に高いのです。日々のパフォーマンスを維持しなければならないビジネスパーソンにとって、これほど強力な味方はいません。わずか1gの脂質を気にするよりも、この「抗疲労効果」という絶大なリターンを選ぶほうが、はるかに賢明な「投資」と言えるでしょう。
また、鶏ムネ肉は牛肉や豚肉だけでなく、同じ鶏肉のササミやモモ肉と比べても、値段が比較的安いです。
前章で「タンパク質は投資」と述べましたが、ムネ肉はまさに「優良な投資信託」です。ササミは、ムネ肉の内側にある小さな部位(テンダーロイン)であり、切り分ける手間がかかるため、実はムネ肉本体よりも100gあたりの単価が高くなることがほとんどです。ムネ肉は、その生産効率の高さから、最も安定して安価に供給されるタンパク質源なのです。
牛肉を毎日食べ続けるのは経済的に厳しいという人も、ムネ肉なら毎日食べることができるのではないでしょうか。
なお、鶏ムネ肉は多くの場合、皮がついたまま売られています。
この皮はほとんど脂身(飽和脂肪酸とコラーゲン)なので、体を引き締めたいならば、包丁で取ることをおすすめします。皮を取るだけで、脂質は約19gから1.9gへと、劇的に減少します。
一方、筋肉を大きくしたいとき(バルクアップ期)は皮も食べたほうがいいです。
詳しくは後述しますが、脂質は筋肉をつけるためには欠かせない栄養素だからです。脂質は1gあたり9kcalと、タンパク質や炭水化物(4kcal)の倍以上のカロリーを持ち、効率的なカロリー摂取(カロリーサープラス)を助けます。さらに、皮に含まれる飽和脂肪酸やコレステロールは、筋肉の合成を促す男性ホルモン(**テストステロン**)の「原材料」となります。脂質を過度にカットするとホルモンバランスが崩れ、筋肉の成長が停滞する可能性があるため、バルクアップ期には皮も貴重な栄養源となるのです。
▼梅干し、キムチ、ジェノベーゼ……、「味変」で飽きを撃退
鶏ムネ肉は塩コショウだけでも十分おいしいが、毎日食べていると飽きがくる。
これがムネ肉の唯一にして最大の弱点です。体づくりとは「継続」そのものです。どんなに優れた食材も、飽きて食べなくなってしまっては意味がありません。
そんなときは「味変」で乗り切りましょう。
鶏ムネ肉は淡白なので、裏を返せば「どんな味にも染まる」という最高の利点があります。和風、洋風、中華、エスニック、あらゆる味付けを受け入れる懐の深さを持っています。
私の働いている「筋肉食堂」では日替わりで鶏肉のソテーを提供していますが、
あるときはサルサソース、あるときは大葉ジェノベーゼソースというように、さまざまなソースで変化をつけています。
梅干し(クエン酸による疲労回復効果もプラス)、レモン、キムチ(発酵食品で腸活にも)、ガーリックなどの食材とも相性が抜群です。
しかし、飽きの最大の原因は「味」だけではありません。「**食感(パサパサ感)**」です。ムネ肉は脂肪が少ないため、加熱しすぎるとすぐに水分が抜け、硬くパサパサになってしまいます。
これを解決する最強の方法が「**低温調理**」です。タンパク質が硬く変性し始める温度(約65℃~70℃)よりも低い温度(60℃前後)でじっくりと火を通すことで、水分を保ったまま、驚くほどしっとりと柔らかく仕上げることができます。市販のサラダチキンが柔らかいのも、この原理を利用しているからです。専用の低温調理器(Sous-vide)がなくても、炊飯器の「保温」機能や、沸騰を止めたお湯に浸けて余熱で火を通す「**茹で鶏(ゆでどり)**」でも、その効果は十分に得られます。
また、調理前に「**ブライニング**」と呼ばれる、塩と砂糖を溶かした水(塩水)に30分ほど漬け込む下ごしらえをするだけでも、肉の保水性が高まり、劇的に柔らかくなります。塩麹やヨーグルトに漬け込むのも、酵素の力で肉を柔らかくする素晴らしい方法です。
巻末のレシピを参考にして、ぜひオリジナルの味つけと調理法に挑戦してみてください。
★POINT 鶏ムネ肉は、スペック、コストを兼ね備えた理想の食材。
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