2022.06.27
23 減量期は、血糖値の急上昇に気をつけろ!
【徹底解説】減量期は「インスリン」を制圧せよ。血糖値スパイクを防ぐことが脂肪燃焼の鍵
減量期について、多くの方が抱く最初の誤解は、「とにかく食事の『量』を極端に減らすことだ」というものです。確かに、脂肪を減らすためには「摂取カロリー < 消費カロリー」(カロリーデフィシット)の状態を作ることが絶対条件です。その意味で、総カロリー(量)の調整は必要です。
しかし、それ以上に重要なのは、「食事の『質』と『構成』を変えること」です。
減量期の真の目的は、糖質や脂質の「質と量」を戦略的に管理し、タンパク質の摂取量を最大化することで、筋肉の減少を最小限に抑えながら、体脂肪の燃焼を促すことにあります。
当然ですが、減量期は新たに脂肪がつくことを徹底して避けたい。そこで不可欠となるのが、「なぜ脂肪が体に蓄積されるのか」というメカニズムの深い理解です。
「油物(脂質)を食べると、そのまま脂肪がつくのでは?」と考えるのは、短絡的すぎます。物事はそれほど単純ではありません。
減量期において、脂質以上に私たちが警戒し、賢くコントロールすべき相手。それが「血糖値」と、それに伴って分泌されるホルモン「インスリン」です。
1. 「インスリン」こそが脂肪蓄積の"鍵"である
体脂肪が体に蓄えられる基本的なプロセスを、もう一度正確に理解しましょう。
① 食事(特に炭水化物)を摂取
↓
② 消化・吸収され、ブドウ糖(グルコース)として血中に放出される
↓
③ 血糖値(血中のブドウ糖濃度)が上昇
↓
④ 膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌される
ここまでは多くの方がご存知です。問題は、インスリンが「何をするホルモンか」という点です。インスリンは単に「血糖値を下げるホルモン」ではありません。それは、「体内にエネルギーを貯蔵する(アナボリック)ホルモン」です。
インスリンは血中のブドウ糖を、以下の順序で各組織に送り込みます。
【優先順位 1位】 筋肉と肝臓(グリコーゲンの補充)
インスリンはまず、ブドウ糖を筋肉細胞と肝臓細胞に送り込み、「グリコーゲン」という形で貯蔵させます。これは、運動時の主要なエネルギー源となるため、非常に重要です。(特にトレーニング直後は、筋肉がグリコーゲンを求めているため、この働きが最優先されます)
【優先順位 2位】 脂肪細胞(体脂肪の合成)
筋肉と肝臓のグリコーゲンタンクが満タンになっても、まだ血中にブドウ糖が余っている場合(これが問題です)、インスリンはその余ったブドウ糖を脂肪細胞に送り込み、中性脂肪(体脂肪)として合成・貯蔵するように命令します。これが「デ・ノボ脂質合成(De Novo Lipogenesis)」と呼ばれるプロセスです。
元の記事で述べられている「血糖値が急激に上がれば上がるほど、生成される中性脂肪は多くなる」というのは、まさにこのことです。血糖値が急上昇する(=血中にブドウ糖が溢れかえる)と、グリコーゲンタンクは一瞬で満タンになり、残りの大量のブドウ糖が脂肪細胞へと直行便で送り込まれてしまうのです。
インスリンの「もう一つの恐ろしい顔」
さらに、インスリンにはもう一つ、減量期において非常に厄介な働きがあります。それは、「脂肪の分解(燃焼)を強力に"禁止"する」作用です。
インスリンが血中に高濃度で存在している間、体は「今はエネルギーが十分にある(貯蔵モードだ)」と判断し、脂肪細胞に対して「蓄えている脂肪を血中に放出するな(=分解するな)」という命令を出します(専門的には「ホルモン感受性リパーゼ」の働きを抑制します)。
つまり、血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌されている間、あなたの体は「脂肪蓄積モードON」かつ「脂肪燃焼モードOFF」という、減量において最悪の状態に陥るのです。
逆に言えば、血糖値の上昇を穏やかにし、インスリンの分泌を低く安定させることができれば、「脂肪蓄積モードOFF」かつ「脂肪燃焼モードON」の時間を1日の中で長く作り出すことができます。これが減量成功の鍵です。
2. GI値より重要!「GL値」で炭水化物を管理せよ
血糖値の上昇度合いをコントロールするために、「GI値(グリセミック・インデックス)」という指標がよく使われます。これは、特定の食品に含まれる炭水化物が、消化されてブドウ糖に変わる速さを、ブドウ糖(GI=100)を基準に0から100の数値で示したものです。
- 高GI食品 (GI > 70): 白米、食パン、うどん、じゃがいも、菓子類など
- 中GI食品 (GI 56-69): パスタ、玄米(製品による)、ライ麦パンなど
- 低GI食品 (GI < 55): オートミール、全粒粉パン、そば、豆類、葉野菜、キノコ類など
減量期は低GI食品を選ぶ、というのは基本中の基本です。しかし、GI値には「食べる量」の概念が欠けています。
グリセミック・ロード (GL値) という新常識
そこで現代の栄養学でより重視されているのが「GL値(グリセミック・ロード)」です。これは、GI値に「1食あたりに食べる炭水化物の量」を考慮に入れた、より実践的な指標です。
【計算式】 GL値 = (その食品のGI値 × 1食あたりの炭水化物量(g)) ÷ 100
例を挙げましょう。「スイカ」はGI値が約72と高GI食品に分類されます。しかし、スイカ100gあたりの炭水化物量は約9.5g(その多くは水分)です。
スイカのGL値 = (72 × 9.5) ÷ 100 = 6.84 (低GL)
一方、「白米」はGI値が約88(高GI)。茶碗一杯(150g)の炭水化物量は約55gです。
白米のGL値 = (88 × 55) ÷ 100 = 48.4 (高GL)
つまり、スイカはGI値が高くても、一食で食べる炭水化物量が少ないため、血糖値への影響(負荷=ロード)は小さいのです。逆に、低GI食品とされるものでも、大量に食べればGL値は高くなり、インスリンは大量に分泌されます。
減量期における炭水化物管理の真髄は、「低GIな食品を選び、かつ、総摂取量(GL値)も低〜中程度にコントロールすること」にあります。
3. 血糖値スパイクを防ぐ「実践的」食事戦略
理論がわかったところで、明日から実践できる具体的なテクニックを紹介します。
戦略①:食べる順番を「ベジ・プロテインファースト」にする
これが最も簡単かつ強力な方法です。
食事の際、炭水化物(白米、パン、麺類)から食べ始める「早食い」は、血糖値を最も急激に上昇させます。
【理想的な食べる順番】
1. 食物繊維(野菜、キノコ類、海藻類)
2. タンパク質・脂質(肉、魚、卵、大豆製品)
3. 炭水化物(米、パン、芋類)
先に食物繊維やタンパク質・脂質を胃に入れることで、それらが後から来る炭水化物の消化・吸収スピードを物理的に遅らせる(胃排出遅延)効果があります。これにより、同じ量の炭水化物を食べても、血糖値の上昇は非常に穏やかになります。懐石料理の順番は、非常に理にかなっているのです。
戦略②:「裸の炭水化物」で食べるな
「おにぎりだけ」「菓子パンだけ」「素うどんだけ」といった、炭水化物単体での食事(=裸の炭水化物)は、血糖値スパイクを引き起こす最悪の食事です。
炭水化物を食べる際は、必ず「服」を着せてください。その服とは、「タンパク質」「良質な脂質」「食物繊維」です。
- おにぎり(炭) → サラダチキン(P)とゆで卵(P/F)とワカメスープ(F)と一緒におにぎりを食べる
- 食パン(炭) → アボカド(F)とスモークサーモン(P/F)、山盛りサラダ(F)と一緒に食べる
- パスタ(炭) → 大量のキノコ(F)と鶏胸肉(P)、オリーブオイル(F)を使ったパスタにする
これらの「服」が、戦略①と同様に消化吸収を遅らせ、インスリンの過剰分泌を防ぐ「防波堤」となります。
戦略③:炭水化物を摂る「タイミング」を最適化する
1日の中で、インスリンの働きを「脂肪蓄積」ではなく「筋肉修復」に最大限活用できる、唯一無二のゴールデンタイムがあります。それが「トレーニング直後(Post-Workout)」です。
ハードなトレーニング後の筋肉は、エネルギー(グリコーゲン)を使い果たし、インスリンに対する感受性が劇的に高まっています(インスリンが無くても糖を取り込めるGLUT4輸送体が活性化している状態)。
このタイミングで適切な量(高すぎないGL値)の炭水化物を摂取すると、インスリンは血中のブドウ糖を、脂肪細胞ではなく、最優先で「筋肉細胞」へと送り込み、グリコーゲンの再補充と筋肉の修復(アナボリック)に使ってくれます。
減量期であっても、1日の炭水化物摂取量の多くを、トレーニング直後(およびトレーニング前)に戦略的に配置することで、脂肪蓄積のリスクを最小限に抑えつつ、筋肉の維持と回復を最大化できます。
まとめ:減量期こそ「食事の質」にこだわれ
減量期とは、単なる我慢大会ではありません。それは、自らの体のホルモン(特にインスリン)を、食事によっていかに賢くコントロールするかという、科学的な戦略です。
- カロリーデフィシットが前提。
- インスリンの過剰分泌が脂肪の蓄積を促し、脂肪の燃焼を妨げる最大の敵であると知る。
- GI値だけでなくGL値(量)を意識し、低GLの炭水化物(玄米、オートミール、芋類など)を選ぶ。
- 食べる際は「野菜・タンパク質ファースト」を徹底する。
- 炭水化物は「PFC(服)」と一緒に摂り、裸で食べない。
- 炭水化物を摂るタイミング(トレ前後)を最適化する。
これらの戦略を実践することで、あなたは血糖値の乱高下を防ぎ、1日中インスリンレベルを低く安定させ、体が「脂肪燃焼モード」でいられる時間を最大化することができます。
もちろん、これらを毎日完璧に管理するのは非常に手間がかかります。「筋肉食堂DELI」の宅配弁当は、まさにこの「高タンパク質を確保」し、「脂質と炭水化物(GL値)を最適にコントロール」するという、減量期に最も必要な栄養バランスを、専門家の知見に基づき設計しています。
賢く食べて、賢く脂肪を燃焼させる。それこそが「食べる筋トレ」における減量期の真髄です。
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