2022.06.27

25 糖質断ちはトレーニーの敵! 簡単に痩せようと思うな!

トレーニングと糖質補給

糖質断ちはトレーニー最大の敵!「燃料」なしで筋肉は育たないという真実


「ダイエット=糖質制限」という考えが一般化し、炭水化物を極端に避けるライフスタイルが流行しています。その影響で、「糖質は太る原因」と目の敵にしているトレーニーも少なくありません。

実際、元の記事で指摘されている通り、糖質を完全に断てば、一時的に体重を劇的に落とすことができます。(その多くは体内の水分とグリコーゲンの枯渇によるものですが)


しかし、これは脂肪が減るだけで筋肉がつくわけではないので、代謝が落ちてしまいます。

仮に目標の体重まで落とせたとしても、代謝が落ちた「省エネモード」の状態で、再び糖質を取り始めると、以前よりもはるかに効率よく脂肪を蓄積し、ダイエット前よりも太りやすくなってしまうのです。これが「リバウンド」の恐ろしい正体です。

もちろん糖質は、過剰に摂取すれば(特に運動もせず、質の悪い糖質ばかりとれば)体脂肪に変わります。


しかし、まったくとらないのは、特に筋トレに励むトレーニーにとっては、それ以上に深刻な問題を引き起こします。
私は毎朝、トレーニング前に意識して糖質をとっています。

この話をすると、「糖質は、食べないほうがいいのでは?」「筋肉の材料はタンパク質だから、それさえ食べていれば、筋肉はつくのでは?」などと聞かれます。


しかし、その考え方はあまりにも短絡的です。なぜなら、炭水化物(糖質)は、筋肉を本気で育てるための「最強のパートナー」だからです。

この記事では、なぜ「糖質断ち」がトレーニーの敵なのか、そして、筋肉を効率よく成長させるために糖質がいかに不可欠であるかを、科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。

 

1. 糖質は「ガソリン」。筋トレのパフォーマンスを左右する唯一の燃料

まず理解すべきは、体内での炭水化物の役割です。食事から摂取された炭水化物は、ブドウ糖(グルコース)に分解され、血液中に放出されます(これが血糖です)。そして、そのブドウ糖は主に2つの場所に貯蔵されます。

  • 肝グリコーゲン: 肝臓に貯蔵され、主に脳の活動や全身の血糖値維持に使われます。
  • 筋グリコーゲン: 筋肉細胞の中に貯蔵され、その筋肉が運動する時専用の「直接的なエネルギー源(ガソリン)」として使われます。

ベンチプレス、スクワット、デッドリフトといった高強度の筋力トレーニング(レジスタンス運動)は、「無酸素運動(アネロビック運動)」に分類されます。このタイプの運動は、酸素を必要としない「解糖系」というエネルギー供給システムを使い、瞬発的に大きな力を発揮します。

そして、この解糖系がエネルギー(ATP)を生み出すために使用する燃料こそが、筋肉内に貯蔵された「筋グリコーゲン」なのです。

脂質(脂肪)もエネルギー源ですが、脂質を燃焼させる「有酸素系」のシステムは、エネルギー供給のスピードが遅く、高強度の筋トレの主要なエネルギー源にはなれません(長距離走など、低強度の運動で主に使われます)。

つまり、どういうことか。

「糖質を断つ」 = 「筋グリコーゲンが枯渇する」 = 「筋トレのガソリンが無い」

ガソリンが無い車がスピードを出せないのと同じで、筋グリコーゲンが枯渇した筋肉では、重い重量を扱えず、回数もこなせません。結果として、トレーニングの質と総負荷量(ボリューム)が著しく低下し、筋肉が成長するために必要な「刺激(シグナル)」を与えることができなくなるのです。

 

2. なぜ代謝が落ちる? 糖質不足が招く「筋肉の分解(カタボリック)」

元の記事で「代謝が落ちてしまう」と指摘されていますが、これはなぜ起こるのでしょうか。それは、体が「糖質不足」という危機的状況に対応しようとするからです。

私たちの体、特に「脳」は、ブドウ糖を主要なエネルギー源としています。血中のブドウ糖が無くなると、生命活動に支障をきたします。

食事から糖質が入ってこない(糖質断ち)と、体は「ヤバい、脳のエネルギーが足りなくなる」と判断し、体内の他の物質から、無理やりブドウ糖を作り出す「糖新生(とうしんせい)」というシステムを発動させます。

この「糖新生」の主な材料は何か? それは、体脂肪(の中のグリセロール)と、「アミノ酸」です。

アミノ酸はどこから調達されるのか? —— そう、あなたの「筋肉」を分解して調達するのです。

つまり、糖質を極端にカットすると、体は自らの筋肉を溶かして(カタボリック)、脳のエネルギー源であるブドウ糖を作り出そうとします。これが、元の記事で言う「脂肪が減るだけで筋肉がつくわけではない」状態の正体です。

筋肉は、体の中で最も多くのカロリーを消費する組織(基礎代謝の源)です。その筋肉が分解されて減ってしまうのですから、当然、基礎代謝は著しく低下します。これが「代謝が落ちる」の真実です。

 

3. タンパク質だけではダメ?「プロテイン・スペアリング効果」

「糖質は抜いても、筋肉の材料であるタンパク質(プロテイン)さえ大量に摂っていれば筋肉は減らないし、つくだろう」—— これが、元の記事が指摘する「短絡的な考え方」です。

なぜなら、「糖新生」は、食事から摂ったタンパク質も材料にしてしまうからです。

ここで非常に重要な概念が「プロテイン・スペアリング効果(タンパク質節約効果)」です。

  • 体内に炭水化物(エネルギー)が十分にある場合:
    体はエネルギー源として「炭水化物」を優先的に使います。そのため、食事から摂ったタンパク質は、エネルギー源として消費されず、「筋肉の修復と合成」という本来の仕事に専念できます。
  • 体内に炭水化物(エネルギー)が不足している場合:
    体はエネルギー不足を補うため、食事から摂ったタンパク質(アミノ酸)ですら「糖新生」の材料として使い、エネルギー源として燃やしてしまいます。

つまり、炭水化物を適切に摂取することは、あなたが摂取した貴重なタンパク質が「燃料」として無駄遣いされるのを防ぎ、「筋肉の材料」として正しく使われるように守る(スペアする)役割を果たしているのです。

糖質を断ちながら高価なプロテインパウダーを飲むのは、例えるなら、ガソリン(炭水化物)が尽きた車で、仕方なく高級なエンジンオイル(タンパク質)を燃やして走ろうとしているようなもの。非常に非効率的で、車(体)を痛めつける行為です。

 

4. リバウンドのメカニズムと、戦略的な糖質摂取法

糖質断ちによって「筋肉が減り、代謝が落ちた(省エネ体質になった)」体。この状態で「目標体重になったから」と、再び糖質を摂取し始めるとどうなるでしょうか。

体は「いつまた飢餓(糖質不足)が来るかわからない」と警戒しています。そのため、入ってきた糖質を、以前にも増して「体脂肪」として効率よく溜め込もうとします。筋肉が減って消費カロリーも減っているため、余計に脂肪がつきやすくなります。

これが「ダイエット前よりも太りやすくなってしまう」リバウンドのメカニズムです。

結論:トレーニーは糖質を「いつ」「何を」食べるか

糖質は敵ではありません。トレーニーにとって最高の「燃料」であり「筋肉の守り神」です。重要なのは、それを「管理」することです。

① ベースとなる炭水化物(普段の食事)
24 減量期もガマンは不要。 主食はこれに置き換えろ!で解説したように、血糖値の急上昇(インスリンの過剰分泌)を防ぐため、主食は「低GI」で「食物繊維やビタミン・ミネラルが豊富な」ものを選びます。
(例:玄米、オートミール、全粒粉パン、そば

② トレーニング前(Pre-Workout)の炭水化物
元の記事の筆者が「毎朝、トレーニング前に意識して糖質をとる」と述べているのは、まさにこれです。トレーニングの1〜2時間前に、玄米、オートミール、バナナなどの良質な炭水化物を摂取し、筋グリコーゲンを「満タン」にします。これにより、トレーニング中の高パフォーマンスを約束します。

③ トレーニング後(Post-Workout)の炭水化物
トレーニングで筋グリコーゲンを使い果たした筋肉は、エネルギーを激しく欲しています。この「ゴールデンタイム」は、筋肉細胞がインスリンへの感受性が非常に高まっている状態です。
このタイミングで、あえて吸収の早い炭水化物(例:白米、和菓子、マルトデキストリンなど)とタンパク質(プロテインシェイクなど)を同時に摂取すると、インスリンがこれら両方の栄養素を、脂肪細胞ではなく、最優先で「筋肉細胞」へと強力に送り込みます。
これにより、筋グリコーゲンの迅速な回復と、筋肉の修復(アナボリック)が開始されます。(※23 減量期は、血糖値の急上昇に気をつけろ!で解説した「インスリンによる脂肪蓄積」とは異なり、このタイミングのインスリンは「筋肉の修復」に働くため、トレーニーにとっては有益です)

 

まとめ:糖質を制する者が、筋トレを制する

「簡単に痩せようと思うな」という元の記事のメッセージは、「安易な糖質断ちに逃げるな」ということです。

糖質を断つのは、一見すると「楽な」近道に見えますが、実際は筋肉を失い、代謝を落とし、リバウンドしやすい体質を作る「最も遠回りな道」です。

トレーニーの正解は、 1. 質の良い炭水化物(玄米など)を、 2. 適切なタイミング(特にトレ前後)で、 3. 適切な量(PFCバランス)を摂取し、 4. それを燃料にしてハードなトレーニングを行い、 5. タンパク質を筋肉の「材料」として正しく使う ことです。

「筋肉食堂DELI」のお弁当が、PFCバランスを計算し尽くし、主食に「玄米」を採用しているのは、まさにこの「食べる筋トレ」の理論に基づいています。筋肉を育てるために必要な「燃料(玄米)」と「材料(タンパク質)」を、最適なバランスで提供しているのです。

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