2022.06.27

26 「チートデー」で、現状維持を求める脳を騙す!

チートデーのごちそう

【減量期の壁】「チートデー」完全ガイド。停滞期を打破し、代謝の火を再燃させる科学的戦略


順調に進んでいたはずの減量。毎日厳しい食事制限とトレーニングを続けてきたのに、ある日を境に、ピタリと体重が落ちなくなる…。

これは、減量を経験した多くの人が直面する「壁」、すなわち「停滞期」です。

この停滞期に直面したとき、多くの人は「まだ食事が甘いのか」「運動が足りないのか」と、さらに自分を追い込んでしまいがちです。しかし、その答えは逆かもしれません。あなたの体は、あなたが頑張りすぎているがゆえに「防衛モード」に入っているのです。

この体の防衛システムをリセットし、再び脂肪燃焼のアクセルを踏み込むための戦略的な「裏技」として、私は食事制限をしている減量期でも、週に1度の割合(※条件によります)で、好きなものを我慢せずに食べる日を設けることを提案しています。
これが「チートデー」です。

なぜ、そんなことが必要なのか。
チートデーを設ける目的は、「脳を騙す」こと。

(ちなみに、チートとは英語で「騙す」という意味です。)

この記事では、なぜ停滞期が起こるのかという体のメカニズムと、「チートデー」がいかにしてその停滞期を打破するのかについて、ホルモンの働きから科学的に徹底解説します。

 

1. なぜ「停滞期」は訪れるのか? 鍵を握るホルモン「レプチン」

食事制限による減量を続けていると、始めたばかりのころと比べて、体重が落ちにくくなる時期が必ずやってきます。これが「停滞期」です。


これは人間の体に備わった「ホメオスタシス(恒常性)」という機能によって引き起こされます。
ホメオスタシスとは、簡単に言えば、脳が自身の体を現状維持しようとする働きのことです。


これまでたくさん食べていた人が、食事を制限するようになり、入ってくる栄養(カロリー)が減ると、脳は「これはマズい。飢餓状態(飢饉)が来たぞ」と判断します。人類の長い歴史は飢餓との戦いであり、この防衛反応は生き残るために不可欠なシステムでした。

では、脳は具体的に何をもって「飢餓」と判断するのでしょうか?

停滞期の真犯人:「レプチン」の低下

ここで登場するのが、「レプチン」というホルモンです。レプチンは主に脂肪細胞から分泌され、脳の視床下部に作用して「満腹感」を伝え、「食欲」を抑制し、「代謝」を活発に保つ役割を担っています。

減量が順調に進み、カロリー不足の状態が長く続き、体脂肪が減ってくると、当然ながら脂肪細胞から分泌されるレプチンの量も「急激に減少」します。

脳(視床下部)は、この「レプチン低下」のシグナルを受け取ると、「飢餓だ!エネルギーを節約しろ!」と判断し、体全体に以下の命令を出します。

  1. 代謝を落とす(省エネモードON):
    基礎代謝(BMR)を低下させ、さらにNEAT(非運動性熱産生:無意識の活動で消費されるカロリー)も減少させます。体が「低燃費なエコカー」状態になり、カロリーを消費しなくなります。これを「適応的熱産生」と呼びます。
  2. 食欲を増やす(エネルギー確保モードON):
    食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌を増やし、「食べろ」という強いシグナルを送ります。
  3. 甲状腺ホルモンを減らす:
    代謝のアクセル役である甲状腺ホルモン(T3, T4)の分泌や変換効率を低下させ、さらなる省エネを図ります。

これが、あなたが真面目に食事制限を続けているにもかかわらず体重が落ちなくなる、「停滞期」の科学的な正体です。

 

2. 「チートデー」が代謝の火を再燃させるメカニズム

では、どうすればこの「省エネモード」を解除できるのか? 答えは単純です。脳に「飢餓は終わったぞ!」と教えてやればいいのです。

チートデー、すなわち「意図的に大量のカロリーを摂取する日」を設けることは、この「飢餓」と判断した脳を「騙す」ための、最も強力なシグナルとなります。

① レプチンの劇的なリセット

レプチンレベルは、体脂肪量だけでなく、「短期的なカロリー(特に炭水化物)摂取量」にも敏感に反応します。チートデーで大量のカロリー、特に多くの炭水化物を摂取すると、体は「ああ、飢饉は終わった。食べ物が豊富にあるぞ!」と判断します。

これにより、低下していたレプチンレベルは、わずか12〜24時間のうちに急激に回復(一説には2〜3倍に)します。レプチンが回復したシグナルを脳が受け取ると、「省エネモード」を解除し、再び代謝のスイッチをONにしてくれるのです。

② 甲状腺ホルモンの活性化

大量の炭水化物の摂取は、甲状腺ホルモンの活性化にも直結します。これにより、落ち込んでいた代謝のアクセルが再び深く踏み込まれ、脂肪燃焼が再開されます。

③ 筋グリコーゲンの再充填(フルチャージ)

25 糖質断ちはトレーニーの敵! 簡単に痩せようと思うな!の復習)減量期は、カロリー不足と炭水化物制限により、筋肉内の「筋グリコーゲン(ガソリン)」が常に枯渇気味です。これにより、トレーニングのパフォーマンスが低下し、筋肉の分解(カタボリック)も進みやすくなります。

チートデー(特に炭水化物を多く摂る場合)は、この枯渇した筋グリコーゲンを一気に満タンにします。これにより、翌日からのトレーニングで高重量を扱えるようになり、トレーニングの質が向上。これがさらなる代謝の刺激となります。

④ 心理的ストレスの解放

科学的な理由だけでなく、心理的なメリットも計り知れません。「何を食べても良い日」が1日あることで、残りの6日間の厳しい食事制限を耐え抜くための強力なモチベーションとなります。これにより、ダイエットの「継続性」が飛躍的に高まるのです。

 

3. チートデー vs リフィード:どちらを選ぶべきか?

チートデーには、似た戦略で「リフィード (Refeed Day)」というものがあります。どちらも停滞期を打破する目的は同じですが、アプローチが異なります。

  • チートデー (Cheat Day):
    目的: 心理的な解放が主。ホルモンリセットも兼ねる。
    内容: 「質」を問わず、好きなもの(ピザ、ケーキ、ジャンクフードなど)を食べる。
    長所: 最高のメンタルリフレッシュになる。
    短所: 脂質の摂取が過剰になりがち。人によっては制御が効かず、翌日以降もダラダラ食べてしまうリスクがある。「1日」のつもりが、1万キロカロリーを摂取し、減量分を帳消しにする可能性も。
  • リフィード (Refeed Day):
    目的: 生理学的な回復(レプチン、グリコーゲン)が主。
    内容: 脂質とタンパク質は維持、または少し増やす程度に抑え、「炭水化物(糖質)」の摂取量だけを意図的に(TDEEの150%や、+1000kcalなど)大幅に増やす。
    例: 大量の白米、餅、パスタ、芋類など、クリーンな炭水化物を中心に食べる。
    長所: 脂肪の蓄積を最小限に抑えつつ、レプチンとグリコーゲンを最も効率よく回復させることができる。
    短所: 「好きなものを食べる」チートデーほどの心理的解放感は得られない可能性がある。

どちらが優れているというわけではありません。心理的なストレスが限界なら「チートデー」、より厳格に、生理学的効果を最大化したいなら「リフィード」を選ぶと良いでしょう。初心者には、まずは「1食だけ好きなものを食べる(チートミール)」から始めることをお勧めします。

 

4. チートデーを成功させるための「重要ルール」

チートデーは諸刃の剣です。やり方を間違えると、単なる「太る日」になってしまいます。以下のルールを厳守してください。

ルール①:あなたは本当にチートデーが必要か?

これが最も重要です。チートデーは、「長期間(最低でも3〜4週間)厳格な食事制限を続け、停滞期(1〜2週間体重が動かない)に入った人」のためのものです。

  • 不要な人:
    • ダイエットを始めたばかりの人。(まだ代謝は落ちていません)
    • 「停滞期かな?」と思っても、食事管理が甘く、週に何度もお菓子などを食べてしまっている人。(それは停滞期ではなく、単純にカロリーオーバーです)
    • まだ体脂肪率が高い人。(体脂肪が多い=レプチンはまだ十分に出ています)
  • 必要な人:
    • 厳格な食事管理を続けている。
    • 体脂肪率がかなり落ちてきた(例:男性15%以下、女性22%以下)。
    • 1〜2週間、体重も見た目も変化が止まった。
    • トレーニングのパフォーマンスが明らかに落ちてきた。

ルール②:頻度と量を守る

頻度は、体脂肪率によります。体脂肪率が低い人ほど、頻繁に(7〜10日に1回)必要になります。まだ体脂肪が多めの人(20%前後)は、14〜21日に1回程度で十分です。

量は「1日中、食べ放題」ではありません。目安として「TDEE(総消費カロリー)の1.5倍」や「通常の摂取カロリー + 1000〜1500 kcal」など、上限を決めて行いましょう。

ルール③:翌日の体重増加に怯えない

チートデーの翌日、体重は確実に1〜3kg増えます。しかし、これはほぼ全てが「水分」と「グリコーゲン」の重さです。脂肪が1日で2kgも増えることは物理的に不可能です。この数字にパニックにならず、「体が潤った証拠だ」と捉えてください。2〜3日かけて元の食事に戻せば、水分は排出されます。

ルール④:「翌日」から厳格に戻す

最大の失敗は「チートデー」が「チートウィークエンド」になることです。チートデーは計画的に実行し、翌朝からは「必ず」元の減量食に戻す。この切り替えが成功の鍵です。

 

まとめ:チートデーは「戦略」である

停滞期は、あなたの体が正しく反応している証拠です。そこで諦めるのではなく、チートデーという「賢い戦略」を使って、体を安心させ、騙してやることが、減量という長いマラソンを完走する鍵となります。

ホメオスタシス(レプチン)のメカニズムを理解し、それを逆手に取る。ただ我慢するのではなく、科学的に体をコントロールする。これこそが「食べる筋トレ」の上級テクニックなのです。

このような複雑なカロリーの波(長期間のデフィシットと、戦略的なサープラス)を管理するのは非常に高度な技術が求められます。「筋肉食堂DELI」のPFCバランスが計算され尽くした食事は、あなたの減量期(デフィシット)を強力にサポートし、停滞期を予防・短縮するための確実な土台となります。

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