2022.06.27

28 ビジネスパーソンが増量するなら、 急激な体型の変化に要注意!

 ビジネスパーソンが増量するなら、急激な体型の変化に要注意!

ここまで、減量期の食事法について説明してきました。
続いて、増量期の食事の仕方について解説して行きます。

「増量」と聞くと、単に「太ること」をイメージされるかもしれませんが、私たちが目指すのは「筋肉量を効率的に増やし、体脂肪の増加は最小限に抑える」ことです。これは専門的には「バルクアップ(Bulk Up)」と呼ばれます。このプロセスにおいて最も重要な概念が「カロリーサープラス」、すなわち「摂取カロリー > 消費カロリー」の状態を意図的に作り出すことです。
筋肉が成長するためには、(1)適切なトレーニングによる筋繊維への刺激、(2)筋修復の材料となるタンパク質、そして(3)修復と成長のプロセスを動かすためのエネルギー(カロリー)が必要です。このエネルギーが不足している状態(カロリーデフィシット)では、いくらトレーニングをしても筋肉は効率的に成長しません。
しかし、ビジネスパーソンがこれを行う場合、単に体重を増やせば良いというものではありません。急激な体重増加、特に体脂肪の増加は、スーツが着られなくなるといった物理的な問題だけでなく、取引先や社内での「自己管理能力」への印象にも影響を与えかねません。また、過剰なカロリー摂取は日中の眠気や集中力の低下を招き、知的生産性を損なうリスクもあります。
したがって、増量期においても「戦略」が必要です。どの程度のカロリーサープラスを設定し、どのような栄養素(PFCバランス)でそれを構成し、どの程度の期間で増量(体重増加)のペースを管理するか。この戦略の違いが、以下で説明する3つの増量パターンです。

増量の方法には次の3パターンがあります。

(1)リーンバルク
(2)クリーンバルク
(3)ダーティーバルク


(1)の「リーンバルク」は摂取カロリーを1日何カロリーと決めて、その範囲内であれば、脂質だろうが糖質だろうが何を食べてもいいというものです。

この説明は、一般的に「IIFYM(If It Fits Your Macros)」または「フレキシブル・ダイエット」として知られるアプローチの簡易的な定義に近いものです。しかし、専門的な視点から「リーンバルク」を厳密に定義するならば、「体脂肪の増加を最小限に抑えながら、徐々に筋肉量を増やすこと」を目的とした、非常に管理された手法です。
「リーン(Lean)」すなわち「脂肪が少ない」状態を維持しつつ増量するため、カロリーサープラスの幅を極めて小さく設定します。具体的には、自身のTDEE(1日の総消費カロリー)を正確に算出し、それに対して**1日あたり+200〜300kcal程度**という、ごくわずかな黒字状態を維持します。
この小さなサープラス(余剰カロリー)を確実に筋肉の合成に回すため、PFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物の比率)の管理が絶対条件となります。「何を食べてもいい」というのは、あくまで「設定したPFCの枠内であれば」という条件付きの自由であり、実際には高タンパク質(体重1kgあたり1.6g〜2.2g)の確保が最優先されます。脂質は総カロリーの20〜30%を確保し、残りを炭水化物で埋めます。
この手法の最大のメリットは、増量期にもかかわらず腹筋の輪郭(シックスパック)がある程度見え続けるなど、体型の崩れが非常に少ない点です。これにより、後の減量期(カット期)が短期間で、かつ楽に進められます。

設定カロリー内なら、ジャンクフードや甘いものもOK。
カロリー制限はありますが、食べてはいけないものがないのでストレスがない(ただし脂肪を好きなだけとると、あっという間にカロリーオーバーしてしまうので注意が必要)。

この「何を食べてもいい」という側面は、リーンバルクのストレス管理における利点であると同時に、最大の落とし穴でもあります。確かに理論上は、設定カロリーとPFCの範囲内であれば、ジャンクフードで炭水化物や脂質を摂取しても構いません。例えば、「会食でフライドポテトを食べたから、夕食の白米を減らす」といった調整が可能です。これが会食の多いビジネスパーソンにとって、リーンバルクが推奨される理由の一つです。
しかし、この「枠内ならOK」というルールを過度に適用し、摂取カロリーの多くをジャンクフードや加工食品で満たしてしまうと、深刻な問題が生じます。第一に、**微量栄養素(ビタミン・ミネラル)の不足**です。筋肉の合成や体内のエネルギー代謝には、PFCという三大栄養素だけでなく、これらをサポートするビタミンB群や亜鉛、マグネシウムなどが不可欠です。これらはホールフード(未加工の食材)に多く含まれており、ジャンクフードではほとんど摂取できません。
第二に、**血糖値の乱高下**です。精製された糖質や脂質が多い食事は、血糖値を急激に上昇させ、その反動で急激に低下させます(クラッシュ)。これは、日中のパフォーマンスが命であるビジネスパーソンにとって致命的で、午後の会議中に強烈な眠気や集中力の欠如を引き起こす原因となります。
したがって、成功するリーンバルクの実践者は、「80/20の法則」などを適用します。総カロリーの80%は栄養価の高いホールフード(鶏肉、魚、卵、玄米、野菜など)から摂取し、残りの20%を会食やストレス管理のための「楽しみ」の枠として利用するのです。リーンバルクとは、「何を食べてもいい」という自由ではなく、「何を食べるかを選択できる」という厳密な自己管理の技術なのです。



(2)の「クリーンバルク」は、カロリー制限はないですが、脂質を控えて、タンパク質と糖質をたくさんとる方法です。
ジャンクフードや揚げ物は禁止。
でも糖質をたくさん食べるので、体脂肪は若干、増えやすい。


この「クリーンバルク」の定義は、従来のボディビルダーが実践してきた手法を反映していますが、現代の栄養科学の観点からはいくつかの補足が必要です。まず、「カロリー制限はない」という点は誤解を招く可能性があります。物理法則として、「カロリー制限がない(=無制限のサープラス)」状態であれば、確実に体脂肪は急速に増加します。
「クリーンバルク」の本質は、「カロリーの**質**」を最重要視する点にあります。「クリーン」という名の通り、加工食品、ジャンクフード、精製された砂糖、質の悪い油(トランス脂肪酸など)を徹底的に排除します。食事はすべて、オートミール、玄米、さつまいも、鶏胸肉、赤身の牛肉、魚、良質なオリーブオイルやアボカド、ナッツ類といった、いわゆる「クリーンな食材」で構成されます。
リーンバルクが「PFCの数値」を管理するデジタルなアプローチだとしたら、クリーンバルクは「食材の種類」を管理するアナログなアプローチと言えます。リーンバルクよりもサープラスの幅を大きく設定すること(例:TDEE +300〜500kcal)が一般的で、より早い筋肉の成長を狙います。
原文の「脂質を控えて」という点は、伝統的なクリーンバルク(ローファット・ハイカーボ)の特徴を捉えています。脂質は1gあたり9kcalと高カロリーであるため、脂質を厳格に制限(例:総カロリーの15%以下)し、その分を炭水化物(トレーニングエネルギー)とタンパク質(筋合成の材料)に振り分けることで、総摂取量を増やしつつも「クリーン」を保とうとする考え方です。
しかし、この手法は良質な脂質の摂取まで不足しがちで、ホルモンバランス(特にテストステロン)の維持に悪影響を与える可能性も指摘されています。そのため、現代のクリーンバルクでは、脂質を極端にカットするのではなく、ナッツや魚油、アボカドなどからの「良質な脂質」はむしろ積極的に摂取し、総カロリーの20〜30%は確保する形が主流となっています。
「糖質をたくさん食べるので体脂肪が増えやすい」という記述も、正確には「クリーンな食材(米、芋、オートミールなど)はカロリーが低いと誤解し、無意識に大量に食べてしまい、結果として総カロリーが過大になりやすい」という方が適切でしょう。食材がクリーンであっても、総カロリーが過剰であれば脂肪は増えます。クリーンバルクは、体内の炎症を抑え、体調を良好に保ちながら増量できるメリットがありますが、食材の準備(自炊)が必須であり、外食や会食が多いビジネスパーソンにとっては実行難易度が非常に高い手法です。

(3)の「ダーティーバルク」いっさい何も気にせず、ただ腹いっぱい食べるというもの。
30代以上は後の減量期に脂肪を落としにくくなるので、ダーティーバルクができるのは20代までだと思います。
 

ダーティーバルクは、その名の通り「汚れた」増量法であり、PFCバランスや食材の質、微量栄養素といった概念を一切無視し、ただ「摂取カロリーの最大化」のみを目指す手法です。ピザ、ハンバーガー、アイスクリーム、菓子パンなど、高カロリー・高脂肪・高糖質なジャンクフードを積極的に摂取し、常に満腹状態を維持します。
この手法の唯一のメリットは、「実行が容易」であることと、摂取カロリーが膨大になるため「短期間で確実に体重が増える」ことです。特に、生まれつき食が細く、体重が増えにくい「ハードゲイナー」と呼ばれる体質の人々が、増量の初期段階で選択することがあります。
しかし、そのデメリットは計り知れません。増える体重の大部分は体脂肪であり、筋肉の増加効率(P-Ratioと呼ばれる、体重増加に対する筋増加の比率)は著しく低下します。短期間で内臓脂肪が蓄積し、インスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンの効きが悪くなる状態)を引き起こすリスクが非常に高いです。これは2型糖尿病の入り口であり、ビジネスパーソンとして最も避けたい健康リスクの一つです。
さらに、質の悪い油(トランス脂肪酸や過剰なオメガ6脂肪酸)の大量摂取は、体内で慢性的な「炎症」を引き起こします。これは関節痛や倦怠感の原因となるだけでなく、トレーニングからの回復を妨げ、結果として筋成長を非効率にします。
「30代以上はダーティーバルクができない」という記述は、まさにその通りです。20代であれば、高い基礎代謝と活発なホルモン分泌によって、ある程度の無茶(ダーティーバルク)が許容され、その後の減量も比較的スムーズかもしれません。しかし、30代以降は加齢に伴い基礎代謝が低下し、ホルモン環境も変化します。この時期にダーティーバルクを行うと、一度増えた脂肪細胞(特に内臓脂肪)は非常に落としにくくなります。また、脂肪細胞自体が肥大・増殖することで、体質的に「太りやすく痩せにくい」状態が固定化されてしまう危険性すらあります(脂肪細胞のハイパープラジア)。ダーティーバルクで得た一時的な体重増加は、将来の健康診断で「高血圧・高脂血症・高血糖」という最悪の結果となって返ってくる、高リスクな「健康負債」と言えるでしょう。

 

▼ビジネスパーソンには「リーンバルク」がおすすめ

この3つのうち、ビジネスマンの方に最もおすすめなのは「リーンバルク」だと
思います。

クリーンバルクとダーティーバルクの特性を詳細に見てきた結果、ビジネスパーソンにとっての最適解が「リーンバルク」であることは、より明確になります。その理由は、単に「太らない」からという外見上の問題だけではなく、ビジネスにおける「パフォーマンス」と「リスク管理」の観点から、リーンバルクが最も合理的かつ戦略的な選択であるためです。
ビジネスの世界では、個人の能力だけでなく、「信頼感」や「自己管理能力」がパフォーマンスの評価に大きく影響します。リーンバルクは、まさにこの自己管理能力を体現する食事法です。日々のカロリーとPFCを管理し、会食の予定に合わせて前後の食事で調整を行い、健康的な体型を維持しながら長期的な目標(筋肥大)を達成するプロセスは、プロジェクト管理や予算管理にも通じる高度なマネジメント技術です。

リーンバルクにはカロリー制限があるため、増量期であっても体型が崩れにくく、スーツを買い替えたりしなくてすみます。

このメリットは、経済的な側面と印象管理の側面で非常に重要です。リーンバルクにおける理想的な体重増加ペースは、**1ヶ月あたり体重の0.5%〜1.0%程度**と非常に緩やかです。例えば体重70kgの人であれば、1ヶ月に350g〜700g程度の増加です。このペースであれば、増えているのはほぼ筋肉(とそれに伴う水分)であり、ウエスト周りが急激に太くなることはありません。高価なオーダースーツのサイズが合わなくなる、といった経済的な損失を回避できます。
一方で、ダーティーバルクはもちろん、管理の甘いクリーンバルクでも、月に2kgも3kgも体重が増えることがありますが、人間の体が1ヶ月に純粋な筋肉として増やせる量には生理学的な限界(多くても1kg前後)があります。それを超える増加分は、ほぼ全てが脂肪です。このペースで増量すると、数ヶ月後にはスーツのジャケットのボタンが閉まらなくなり、スラックスはパツパツになります。

また、急激に太ると、印象が悪くなったり、久しぶりに会った取引先に驚かれたりするが、このリスクも回避できます。

「自己管理」は、現代のビジネスパーソンに求められる重要な資質です。体型は、その人の生活習慣や自己管理能力を視覚的に示す、最も分かりやすい指標の一つです。久しぶりに会った取引先の相手が、以前とは別人のように不健康に太っていたら、ポジティブな印象は受けにくいでしょう。無意識のうちに「自己管理が甘い」「健康への配慮が欠けている」といったネガティブなレッテルを貼られ、それがビジネス上の信頼関係に影響しないとも限りません。
リーンバルクによって、健康的で引き締まった体型を維持しながら「少しずつガッシリしてきた」という変化を見せることは、むしろ「継続的に努力できる」「自己管理が徹底している」というポジティブな印象を与え、信頼の獲得に繋がる可能性すらあります。


また、食べ物に制限がないため、カロリーをコントロールできていれば、食事を
選ぶ手間と時間を省くことができます。

 

この「柔軟性」こそ、リーンバルクが多忙なビジネスパーソンに最適な最大の理由です。クリーンバルクのように「揚げ物禁止」「会食のコース料理はNG」と厳格にルール化してしまうと、現実のビジネスシーン(接待、会食、出張)に対応できません。かといってダーティーバルクのように全てを受け入れてしまえば、健康と体型が崩壊します。
リーンバルクは、「管理下の柔軟性」を提供します。「今夜はフレンチの会食で、脂質とカロリーを多く摂取することが予想される」と分かっていれば、その日の朝食と昼食を、意図的に「高タンパク・低脂質・低炭水化物」(例えば、鶏胸肉とブロッコリー)に調整することで、1日のトータルのPFCバランスを目標値に近づけることができます。これは、予期せぬトラブル(会食)に備えて、事前にリスクヘッジ(昼食の調整)を行うビジネスの思考法そのものです。
食事を選ぶ「手間と時間」についても同様です。リーンバルクを実践し、自身のPFC摂取量を日々トラッキングしていると、「このコンビニのサラダチキンはタンパク質が20gで脂質が2gだな」「この定食は炭水化物が多いから、ご飯を半分にしてもらおう」といった判断が瞬時にできるようになります。これは「手間」ではなく、健康というリソースを最適化するための「意思決定」です。この習慣は、日中の知的生産性を最大化し、長期的なキャリアを支える強固な基盤となるでしょう。

★POINT 増量は筋肉をつける効率的な手法。

最終的に、増量(バルクアップ)は、単に体を大きくするためだけのものではありません。適切に管理された増量は、基礎代謝を高め、体力を向上させ、精力的なビジネス活動を支えるエネルギーを生み出します。特にリーンバルクは、筋肉という「資産」を積み上げながら、脂肪という「負債」を最小限に抑える、最も賢明な「身体的投資戦略」です。
この戦略を実行するには、(1)消費カロリー(TDEE)の正確な把握、(2)目標とするPFCバランスの設定、(3)日々の食事の記録(モニタリング)、そして(4)週単位での体重と体型のチェック(効果測定と軌道修正)が不可欠です。これらはすべて、ビジネスにおけるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)と同じです。ぜひ、ご自身の体を最高のビジネス資産として捉え、戦略的な増量に取り組んでみてください。

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