2022.06.27
34 水は栄養の運び屋。 水分不足はパフォーマンスを半減させる
水は「最強の輸送システム」。水分不足が筋肉とパフォーマンスを破壊する理由
「健康のためには水をたくさん飲むべきだ」と、一度は聞いたことがあるはずです。
しかし、こと「体づくり(筋肥大)」をしているトレーニーにとって、水分摂取は「健康のため」という漠然とした理由を超えた、筋肉の成長そのものに直結する「最重要戦略」の一つです。
トレーニング中の水分不足(脱水症状)は、元の記事が指摘するように、最も簡単に、そして最も劇的にあなたのパフォーマンスを落とす原因となります。
この記事では、「なぜ水が必要なのか」を、栄養のデリバリー、筋力の発揮、そして高タンパク質食との関係性から科学的に深掘りし、「何を」「どれだけ」「いつ」飲めばいいのかを徹底的に解説します。
1. わずか2%の脱水がパフォーマンスを破壊する
トレーニーが水分摂取を最優先すべき第一の理由は、脱水が即、「筋力低下」に直結するからです。
体重のわずか1〜2%の水分を失っただけで、筋力、パワー、そして持久力は有意に低下することが多くの研究で示されています。体重70kgの人なら、たった700g〜1.4kgの水分(汗)を失うだけで、あなたのパフォーマンスは半減し始めるのです。
なぜか?
- ① 筋収縮の非効率化:
筋肉の収縮には、カルシウム、ナトリウム、カリウムといった「電解質(ミネラル)」の正常なやり取りが不可欠です。水分が不足すると、この電解質のバランスが崩れ、神経から筋肉への「動け」という指令がスムーズに伝わらなくなります。これが「力が入らない」「いつもより早くバテる」感覚の正体です。重症化すると「筋肉の痙攣(足がつる)」を引き起こします。
- ② 体温調節(冷却)の失敗:
トレーニングで筋肉が熱を生むと、体は「汗」をかき、その汗が蒸発する際の「気化熱」で体温を下げようとします。体内の水分が不足すると、この冷却システムが機能不全に陥ります。
体温が異常上昇(オーバーヒート)すると、脳は生命を守るために「運動停止」のシグナルを出し、パフォーマンスを強制的にシャットダウンさせます。
どれだけ完璧なトレーニングフォームでも、体内に水分がなければ、筋肉は100%の力を発揮できないのです。
2. 水は「栄養の運び屋」:血流とデリバリーの科学
元の記事で「水は栄養の運び屋」と喝破されている通り、これこそが筋肉の「成長(回復)」に関わる最も重要な役割です。
水分が不足すると、血液の流れが悪くなります。
ということは、せっかくとった栄養が体の各組織にスムーズに届かないということになります。
このメカニズムを詳しく見てみましょう。
血液の主成分である「血漿(けっしょう)」は、その約90%が「水」でできています。体内の水分が不足すると、血液は粘度を増し、いわゆる「ドロドロ血」の状態になります。
これは、栄養のデリバリーシステムにおいて「交通渋滞」が発生しているのと同じです。
- ① 栄養素(アナボリック)が届かない:
あなたが「食べる筋トレ」で必死に摂取したタンパク質(アミノ酸)や炭水化物(グルコース)は、血液という「トラック」に乗って、修復を待つ筋肉(建設現場)へと運ばれます。血流が悪ければ、このトラックが現場にたどり着けません。
- ② 酸素(エネルギー)が届かない:
トレーニング中のエネルギーを生み出すために必要な「酸素」も、赤血球によって血液中を運ばれます。血流が滞れば、筋肉は酸欠になり、すぐに疲労困憊してしまいます。
- ③ 疲労物質(カタボリック)が除去できない:
トレーニングによって発生した乳酸や老廃物といった「疲労物質」は、血液によって運び出され、処理されます。血流が悪いと、この「ゴミ収集車」が機能せず、疲労物質が筋肉内に蓄積し、疲労感や筋肉痛の回復が遅れます。
がんばって食べたタンパク質を筋肉に届けて大きくするためにも、水分をたっぷりとって「血流(輸送システム)」を高速でスムーズに保つことが、絶対に不可欠なのです。
「筋肉食堂DELI」で完璧な栄養素を摂取しても、それを運ぶ「水」がなければ、その食事の効果は半減してしまうのです。
3. 「1日2L」はスタートライン。トレーニーがもっと必要な理由
よく「1日2リットルは水を飲むべきだ」と言われますが、これは「運動をしない、平均的な成人」の目安です。トレーニーは、それ以上必要とする明確な理由があります。
A) トレーニングによる発汗(+500ml〜1.5L)
当然ですが、トレーニングで失った汗の分は、ベースライン(2L)に「追加」で補給する必要があります。1時間の激しいトレーニングでは、500ml〜1.5L以上の水分が失われることも珍しくありません。
B) 高タンパク質食の「尿素」排出(+500ml〜)
これが専門的に非常に重要なポイントです。「食べる筋トレ」でタンパク質の摂取量を増やすと、その代謝の過程で「尿素(窒素老廃物)」という副産物が生成されます。
この尿素は、体にとっては一種の「毒素」であり、腎臓でろ過され、尿として体外に排出されなければなりません。
腎臓がこの尿素を安全かつ効率よく排出するために、通常よりも「多くの水分」を必要とします。
高タンパク食を実践するトレーニーが水分摂取を怠ると、腎臓に過度な負担をかけるリスクがあるのです。筋肉を育て、内臓を守るためにも、水は追加で必要なのです。
C) 筋細胞の「充満」(Cell Volumization)
筋肉(筋線維)の内部は、その約70%以上が水分で満たされています。筋肉細胞内に水分がパンパンに詰まっている状態(細胞の膨張)は、それ自体が「筋肉を合成(アナボリック)せよ」という物理的なシグナルとなり、筋肥大を促進することが示唆されています。水分不足は、このアナボリックシグナルも弱めてしまいます。
【トレーニーの新常識】
元の記事が言うように「2リットルという目安にしばられる必要はない」ですが、それは「少なくても良い」という意味では断じてありません。むしろ逆です。
「最低2Lのベースライン + トレーニングでの発汗量 + 高タンパク食のための追加分(500ml〜)」を合計し、「気づいたら合計で3L、4L飲んでいた」というのが、多くのトレーニーにとっての理想となります。
4. 「喉が渇いた」は手遅れ。戦略的「こまめ飲み」
水分補給の戦略で最も重要なのは、「いつ飲むか」です。
「喉が渇いた」と感じた瞬間、あなたの体はすでに「1〜2%の脱水状態」にあり、パフォーマンスは低下し始めています。「喉が渇いたから飲む」では、常に手遅れなのです。
正解は、元の記事が推奨する「ちょこちょこと意識的に飲む(=こまめ飲み)」ことです。喉が渇く「前」に、計画的に補給します。
【戦略的 水分補給スケジュール】
- 起床直後(500ml):
睡眠中、体は呼吸や発汗で約500mlの水分を失い、軽い脱水状態にあります。朝一番にコップ1〜2杯の水を飲み、内臓を目覚めさせ、血流をリセットします。 - トレーニング1〜2時間前(500ml):
トレーニング開始時に「満タン」の状態を作るための「事前補給(プレローディング)」です。 - トレーニング中(15〜20分ごとに150〜200ml):
失った分を「リアルタイム」で補給します。一気にガブ飲みすると胃に負担がかかるため、セットの合間に一口ずつ、こまめに補給します。 - 食事中・食間(こまめに):
1日の残りの水分を、食事中や食間に均等に分けて摂取します。 - 就寝前(コップ1杯):
睡眠中の脱水を防ぐために補給します。
5. なぜ「お茶ではなく水」なのか?(カフェインの罠)
元の記事は「お水の代わりにお茶を飲むんじゃダメなの?」という疑問を提示しています。これは多くの人が抱く疑問です。
お茶(緑茶、紅茶、ウーロン茶)やコーヒーには**「カフェイン」**が含まれています。カフェインには、覚醒作用や脂肪燃焼を助けるメリットがある一方で、「利尿作用(りにょうさよう)」というデメリットがあります。
利尿作用とは、腎臓に働きかけ、尿の生成を促し、体から水分を「排出」させようとする働きです。
つまり、お茶やコーヒーで水分を100ml摂取しても、カフェインの利尿作用によって、そのうちのいくらか(例えば20〜30ml)が余分に排出されてしまう可能性があります。これでは、純粋な水分補給(リテンション=体内保持)という観点では、100ml補給できる「水」に劣ってしまいます。
トレーニーの水分補給の第一目的は「体内に最大限、水分を保持すること」です。したがって、水分排出を促すカフェイン飲料は、「水分補給」のメインとしてカウントすべきではありません。
(※麦茶、ルイボスティー、ハーブティーなどの「ノンカフェイン」の飲料であれば、この限りではありませんが、最も純粋で吸収効率が良いのは「水」です)
まとめ:栄養(食事)と輸送(水)はセットで考える
筋肉を育てる「食べる筋トレ」は、完璧なPFCバランスの食事を摂って終わりではありません。その栄養素を、体の隅々にある筋肉細胞まで「輸送」し、「老廃物」を回収する。その全プロセスを担う「水」の管理まで含めて、「食べる筋トレ」は完結します。
- 「喉が渇く前」に「こまめに」飲む。
- 1日3〜4Lを目標に、ベースライン+α(トレーニング、高タンパク食)を補給する。
- カフェイン飲料(お茶・コーヒー)は水分補給にカウントせず、メインは「水」で摂る。
あなたの体という「国家」において、筋肉食堂DELIの食事は「最高品質の資材」です。そして「水」は、その資材を全国の建設現場(筋肉)に届けるための「高速道路網」です。両方が揃って初めて、国家(体)は成長・発展できるのです。
筋肉食堂の食事内容を見てみる