2022.06.27

42  筋肉は少しずつしかつかない

第4章「食べる筋トレ」は明日も続く 継続の心得を伝えよう

▼筋肉は少しずつしかつかない

そもそも筋肉はそんなに簡単につきません。
筋トレは、筋トレをするから筋肉がつくといった簡単なことではないのです。

筋トレは筋細胞を傷つける作業で、重いダンベルなどを持ち上げたりして筋肉に負荷をかけると、筋肉を構成する筋繊維が一旦壊れます。

激しい運動をすると筋肉痛を感じることがありますが、これはその壊れた部分に炎症が起きていると言われています。
(ちなみに筋肉痛のメカニズムは未だに解明されていません)
 

この壊れた筋肉は、筋トレをしてから48〜72時間(2〜3日)くらいすると修復されます。(時間については諸説あり)

修復された部分は、筋トレ前よりも肥大しています。
これが『超回復』という”筋肉が大きくなる仕組み”です。

つまりある程度の負荷をかけ、無理をしないと筋肉は大きくなりません。
とはいえ、その分無理をすれば、その分だけ筋肉がつくかというと、そうではないのです。

 

例えば、AさんとBさんの二人がいたとします。

Aさんは3時間に及ぶ筋トレをして、もう腕が上がらないくらいまで自分を追い込んだとします。

一方、Bさんは45分の筋トレをして、『もうこれで限界』と感じてからさらにもう、1回、2回とダンベルを持ち上げたとします。ほんの少し限界を突破し、無理をしたとします。
 

 

和紙を1枚1枚重ねるようにしてつくのが筋肉である

長時間頑張ったAさんと、短時間で筋トレを終えたBさんとでは、Aさんの方がハードにトレーニングした分、回復に時間がかかります。
さらに、筋肉痛や疲労が残っているうちにまた激しいトレーニングをすると、回復が追いつかず、逆に筋肉が減ってしまう恐れもあります。

このことからわかるように、負荷をかければかけるだけ筋肉がつくわけではありません。
筋肉は本当に少しずつしかつかないのです。

 

私自身もトレーナーに就職した年、最初の半年で15kg増やし、その後半年かけて14kgの減量を行なったことがあります。

一概にはいえないのが、この1kgの筋肉だと思っています。

つまり、1年で1kgしか筋肉が増えなかったことになり、それくらい筋肉はつきにくいという事が伝わったでしょうか。

 

貯金と同じで、貯めるのは大変ですが、減るのはあっという間なのです。

結局のところ、筋トレは『積み重ね』だと言えます。
和紙を一枚一枚重ねて行くくらいのペースでしか、筋肉はついていきません。

植物の種を土に埋めても、次の日に実がつくことはありません。
筋肉はそれと同じで、生物である人間の体は、それなりのスピードでしか変化しないのです。

 

★POINT
すぐに結果を求めるな。継続してこそ成功の果実は手に入る。


第4章「食べる筋トレ」は明日も続く 継続の心得を伝えよう【専門的補足】

元の記事では「食べる筋トレ」の継続の重要性と、筋肉が少しずつしかつかないという「超回復」の基本的な仕組みについて触れられています。ここでは、そのプロセスをさらに深く掘り下げ、継続を科学的にサポートするための専門的な知見を追加します。

▼「超回復」のメカニズムと栄養学的アプローチ

元の記事で言及されている「超回復(Supercompensation)」は、トレーニングによって筋繊維が微細に損傷(マイクロトラウマ)し、それが修復される過程で以前よりもわずかに太く、強くなる現象を指します。このプロセスは、単に「待つ」だけでは最適化されません。以下の3つの要素が不可欠です。

  1. 適切な刺激(トレーニング): 筋肉が適応する必要性を感じる程度の負荷(漸進性過負荷の原則)。
  2. 適切な休養(回復時間): 元の記事の通り48〜72時間。部位や強度により変動します。
  3. 適切な栄養(材料の供給): これこそが「食べる筋トレ」の核心です。

特に重要なのが「栄養」です。筋肉の修復と成長(筋肥大)は、「筋タンパク質合成(Muscle Protein Synthesis, MPS)」が「筋タンパク質分解(Muscle Protein Breakdown, MPB)」を上回る状態(=ポジティブな窒素バランス)で発生します。

トレーニング直後は、MPSとMPBがともに高まる状態になります。ここで「食べる筋トレ」を実践しない(=栄養、特にタンパク質を摂取しない)場合、MPBがMPSを上回り、筋肉は回復するどころか、逆に異化(カタボリック)状態、つまり分解が進んでしまうリスクさえあります。

1. 筋タンパク質合成(MPS)を最大化する食事戦略

タンパク質の摂取タイミングと量(プロテイン・タイミング):

筋肉の修復プロセスはトレーニング後すぐに始まります。特にトレーニング後30分〜2時間以内は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、栄養素(特にタンパク質と糖質)の感受性が高まっています。このタイミングで高品質なタンパク質(例:ホエイプロテイン)を摂取することは、MPSを迅速に高める上で非常に有効です。

しかし、ゴールデンタイム「だけ」が重要なのではありません。近年の研究では、1日の総タンパク質摂取量の方が、タイミングよりも重要であるとされています。さらに、MPSを1日を通して高く維持するためには、1回の食事で大量に摂取するよりも、1回あたり20〜40gのタンパク質を3〜4時間おきに分けて摂取する方が効率的であるというエビデンス(証拠)が蓄積されています。

ロイシンの役割(ロイシン・トリガー):

タンパク質を構成するアミノ酸の中でも、特に「ロイシン」(BCAAの一つ)は、MPSを開始させる「スイッチ」の役割を果たすことが知られています(ロイシン・トリガー仮説)。1回の食事でロイシンを約2.5〜3g摂取することが、MPSを最大化するための一つの目安とされています。鶏胸肉、卵、乳製品、大豆製品など、必須アミノ酸(EAA)バランスの良い食品を意識的に摂取することが重要です。

2. トレーニングの質を高めるエネルギー戦略

グリコーゲンの重要性:

高強度の筋トレ(重いダンベルを持ち上げるなど)の主要なエネルギー源は、筋肉や肝臓に貯蔵されている「筋グリコーゲン(糖質)」です。これが枯渇すると、パフォーマンスは著しく低下し、筋肉を十分に追い込むことができなくなります。

「食べる筋トレ」は、タンパク質だけでなく、トレーニング前後の糖質摂取も重視します。トレーニング前に適切な糖質(例:バナナ、おにぎり)を摂取することで、エネルギー切れを防ぎ、トレーニングの質を高めます。また、トレーニング後にタンパク質と同時に糖質を摂取することは、枯渇したグリコーゲンの速やかな補充(リフィーリング)と、インスリンの分泌を促し、タンパク質の筋肉への取り込みを助ける効果も期待できます。

▼継続のための心理学:「和紙を1枚1枚重ねる」メンタリティ

元の記事にある「和紙を1枚1枚重ねる」という比喩は、筋肥大の生物学的な現実(1年で1kgという例)を見事に表しています。この遅い進捗を受け入れ、継続するためには、以下の点を理解することが助けになります。

神経系の適応が先行する:

筋トレを始めて最初の数週間〜数ヶ月で持ち上げられる重量が増加するのは、主に「神経系の適応」によるものです。つまり、筋肉そのものが太くなったのではなく、脳が筋肉(運動単位)をより効率的に、同時に動員する方法を学習した結果です。この段階で「すぐに筋肉がついた」と誤解すると、その後の停滞期(神経系の適応が一段落し、本当の筋肥大のペースになる時期)に挫折しやすくなります。

AさんとBさんの比較(トレーニングボリュームの観点):

元の記事のAさん(3時間)とBさん(45分)の例は、「オーバーワーク」のリスクを示唆しています。筋肥大において重要な指標の一つに「トレーニングボリューム(総負荷量=重量 × 回数 × セット数)」があります。

Aさんのように長時間ダラダラと行うトレーニングは、後半の質が低下し、総ボリュームが稼げないばかりか、コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰な分泌を招き、筋肉の分解(カタボリック)を促進する可能性があります。

一方、Bさんのように短時間で「限界の少し先」(=筋破壊)に到達するトレーニングは、強度が高く、効率的に筋肥大のシグナルを送ることができます。重要なのは時間ではなく、「質の高い刺激(=適切なボリュームと強度)」を筋肉に与え、回復可能な範囲に留めることです。

★POINT(補足)
筋肥大は「刺激(トレーニング)」×「栄養(食事)」×「休養」の掛け算である。どれか一つがゼロ、あるいは不十分であれば、成果は最大化されない。

この記事で追加したように、筋肉がつく仕組みを深く理解することは、日々の食事やトレーニングの選択に確信を与え、モチベーションの維持に繋がります。「なぜ今、これを食べるのか」「なぜ今、休むのか」を理解して実践することこそが、「食べる筋トレ」を成功させる鍵となります。

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