2022.07.14

45 放っておくと、人は見たいところだけしか見なくなる。 スマホを使って、客観的に変化を記録せよ

放っておくと、人は見たいところだけしか見なくなる スマホを使って、客観的に変化を記録せよ

前項では「鏡をよく見て変化に敏感になろう」とお伝えしたが、人は鏡を見るとき、見たくないものを見ないようにすることがあります。


無意識に脳の補正機能が働くのです。
こうなると鏡を見ても、都合の悪い部分は目に入らない。


そこでスマホの登場である。
自分の体を写真に撮れば、客観的な評価ができる。


毎日同じ場所、同じアングルで上半身裸になって写真を撮る。
自宅の洗面所の鏡の前などがいいかもしれません。
それをたとえばインスタグラムにアップします。
鍵つきアカウントにすれば、誰にも見られることはない。


あるいは「痩せたら、はきたいジーンズ」を用意しておいて、たまにはいてみる。
そのジーンズが体型の変化をはかる物差しになるのです。
ベルトの穴に注目してみるのもいいでしょう。
 

★POINT
変化を実感することも「食べる筋トレ」継続のコツ。


「記録」こそが最強の武器:客観的データが脳のバイアスを超える【専門的補足】

元の記事では、「鏡だけでは都合の悪い部分を見なくなる」という脳の補正機能(バイアス)を指摘し、スマホでの写真撮影による「客観的な記録」が重要であると述べられています。これは、体づくりを成功に導くための行動科学における核心的なテクニックです。ここでは、なぜ記録がそれほどまでに強力なのか、そして写真以外に何を記録すべきかを詳細に解説します。

▼なぜ鏡だけでは不十分なのか?「脳の補正機能」の正体

毎日鏡を見ていると、わずかな変化には気づきにくいものです。それだけでなく、脳には以下のような「自分を守る」ためのバイアス(偏見)が働きます。

1. 確証バイアス (Confirmation Bias):

人は、「自分は頑張っている」と思いたい時、「頑張っている証拠」(例:少し引き締まって見える角度、照明の良い瞬間の顔)だけを無意識に探し、都合の悪い情報(例:下腹部の脂肪、背中のたるみ)を無視しがちです。「ちょっと顎がシュッとしてきたな」(ID 44)というポジティブな変化に気づくことは重要ですが、同時に「お腹はまだ変わっていないな」という現実も直視する必要があります。

2. 正常性バイアス (Normalcy Bias) / 現状維持バイアス (Status Quo Bias):

体づくりは遅々としたプロセスです(ID 42)。脳は急激な変化を嫌い、「今の状態が普通(正常)」であると思い込もうとします。昨日と今日のわずかな差を「誤差」として処理してしまい、1ヶ月後に振り返っても「何も変わっていない」と結論づけてしまうのです。

スマホで撮影した「写真」は、これらのバイアスを強制的に排除します。それは「過去のある一点」を切り取った冷徹な「事実(データ)」であり、現在の姿と並べて比較することで、脳が無視してきた「わずかな差の蓄積」を明確に可視化します。

▼「記録」がもたらす行動変容のメカニズム

客観的な記録(トラッキング)は、単なる思い出作りではありません。それ自体が行動を強化する強力なフィードバックループを生み出します。

1. 自己監視(Self-Monitoring)の効果:

自分の行動や結果を「記録する」という行為そのものが、対象への意識を高めます。「食べる筋トレ」で言えば、食事内容を記録(レコーディング)するだけで、何を食べるべきか、何が余計だったかを自覚し、自然と食生活が改善されることが知られています。体の写真を撮ることも同様で、「撮られる」ことを意識するだけで、無駄な間食を控えるといった行動変容に繋がります。

2. フィードバック・ループの構築:

体づくりは「行動(食事・筋トレ)→ 結果(体組成の変化)」の繰り返しです。しかし、結果が出るまでには時間がかかります。客観的な記録は、この「結果」を可視化する唯一の手段です。写真を見て「あ、背中のラインが変わってきた」と実感できれば、それが強力な「報酬」となり、「食べる筋トレ」やトレーニングを「もっと続けよう」というモチベーション(内的動機付け)が爆発的に高まります。

▼何を、どのように記録すべきか?

元の記事では「写真」と「ジーンズ」が挙げられていますが、より多角的に「客観的な事実」を記録することで、停滞期(ID 43)でも変化を見逃さなくなります。

1. 写真(定性的な「見た目」の記録)

最も重要な記録です。しかし、正確に比較するためには厳格なルールが必要です。

  • 条件の固定: 「毎週日曜の朝、起床直後、トイレの後」など、日時と体の状態を固定します。食後やトレーニング後(パンプアップ状態)は体が違って見えるためNGです。
  • 場所と照明の固定: 常に同じ部屋、同じ照明(窓からの自然光が望ましい)で撮影します。照明の当たり方で陰影は激変します。
  • アングルの固定: スマホを置く位置を決め、セルフタイマーを使います。「正面」「側面(横向き)」「背面(後ろ姿)」の3アングルを必ず撮影します。背中や腰回りの変化は、自分では見えないため特に重要です。

2. 測定(定量的な「見た目」の記録)

写真は体調やむくみで見え方が変わることがありますが、「メジャー(巻尺)」による測定値は嘘をつきません。体重よりもはるかに体組成の変化を反映します。

  • 腹囲(ウエスト): 最も重要な指標。おへその高さ、あるいは一番細い部分で測定します。リラックスして息を吐いた状態で測ります。
  • 胸囲: 乳頭の高さで測定。
  • 上腕囲(腕周り): 力こぶが最も太くなる部分。
  • 大腿囲(太もも周り): 股の付け根から膝までの真ん中あたり。

体重が変わらなくても、腹囲が減り、胸囲や上腕囲が増えていれば、それは「脂肪が減り、筋肉が増えている」理想的な状態(リコンポジション)であることを示します。

3. 体重と体脂肪率(定量的な「体組成」の記録)

ID 43で述べた通り、変動要因を理解した上で、あくまで「トレンド」を見るための補助的な記録として有用です。毎日同じ条件(例:起床直後)で測定し、1週間ごとの「平均値」で比較するとノイズが減ります。

4. 「痩せたらはきたいジーンズ」(物理的なベンチマーク)

これは、写真や数値とは異なる、非常に優れた「物理的な指標」です。はけなかったジーンズが通るようになる、ベルトの穴が一つ縮まる。これらは、日々のわずかな変化の「蓄積」が「明確な成果」に変わった瞬間であり、何物にも代えがたい達成感と継続への意欲を与えてくれます。

★POINT(補足)
記録(データ)は、脳の「思い込み」や「バイアス」を打ち破る唯一の客観的な事実である。記録なきところに改善なし。

「食べる筋トレ」を実践しても、体はゆっくりとしか変わりません。しかし、確実に変わっています。そのわずかな変化を「記録」によって捉え、可視化し、実感することこそが、モチベーションが低下する時期(ID 44)や停滞期(ID 43)を乗り越え、継続を可能にする最大の秘訣なのです。

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