2022.06.27

41 食事は筋トレ。 睡眠も筋トレ。

睡眠と筋肉の回復(成長ホルモン)

食事は筋トレ。そして「睡眠」こそが最強の筋トレである理由


これまで「食べる筋トレ」として、「何を」「いつ」「どのように」食べるかについて徹底的に解説してきました。しかし、「食べる筋トレ」が完璧に実践できていても、最後のピースが欠けていれば、あなたの努力は決して報われません。

その最後のピースこそが**「睡眠」**です。

食べることが筋トレの一部であるように、睡眠もまた、筋トレとは切っても切り離せない、いや、筋肉を「成長させる」という観点において最も重要なプロセスなのです。

この記事では、なぜ睡眠が「最強の筋トレ」なのか、その科学的根拠をホルモンの観点から徹底的に解説します。

 

1. 筋トレのサイクル:「破壊」と「超回復」

まず、筋トレで筋肉が成長する「超回復(Supercompensation)」のプロセスを正しく理解する必要があります。

① 破壊(カタボリック):
筋トレ(特に高強度のウェイトトレーニング)は、それ自体が筋肉を成長させる行為ではありません。元の記事が指摘するように、それは「自分の体を傷つけること」、すなわち筋繊維に微細な損傷(マイクロトラウマ)を与える「破壊」のプロセスです。

② 回復・適応(アナボリック):
トレーニングによって傷つけられ、エネルギーが枯渇した「マイナスの状態」のままでは、筋肉はむしろ細くなってしまいます。このマイナスをプラスに転じさせ、「以前よりも強く、太い状態」にまで回復・適応させるプロセス。これが「超回復」です。

そのプラスに戻す行為(=超回復)こそが、「食事(栄養補給)」と「睡眠(修復作業)」なのです。

ジムでの1時間が「破壊」の時間だとすれば、残りの23時間は「回復」の時間です。どれだけハードにトレーニング(破壊)しても、回復作業が追いつかなければ、筋肉は決して成長しません。だからこそ、「食事と同様、睡眠も筋トレの一部」なのです。

 

2. 睡眠という「最強のアナボリック・タイム」

なぜ睡眠が、食事と並んで重要なのでしょうか。それは、睡眠中にこそ、筋肉の修復と成長を司る「最強のホルモン」が分泌されるからです。

A) 筋肉を回復させる「成長ホルモン (HGH)」

筋肉を回復させるホルモンを「成長ホルモン(HGH: Human Growth Hormone)」といいます。ネーミングからして子どもだけに必要なホルモンのように思えますが、大人、特にトレーニーにとっては最も重要なホルモンの一つです。

成長ホルモンは、その名の通り「成長」に関わる強力なアナボリック(同化)ホルモンであり、以下のような働きで筋肥大を強力にサポートします。

  • 筋タンパク質合成(MPS)の促進: 筋肉の「材料」であるアミノ酸の取り込みを促し、筋肉の合成(MPS)のスイッチを入れます。
  • 脂肪の分解を促進: 体脂肪を分解してエネルギー源として利用する(脂肪動員)働きを強めます。つまり「筋肉を増やし、脂肪を減らす」という、トレーニーにとって理想的な状態を作り出します。
  • 骨や腱、靭帯の修復・強化: 怪我の予防と回復にも不可欠です。

B) 成長ホルモンは「いつ」分泌されるのか?

元の記事で最も重要なポイントが、ここに書かれています。

実は、この成長ホルモンは眠っているときにしか分泌されません。(※厳密には、高強度の筋トレ直後にも少量分泌されますが、1日の分泌量の大部分は睡眠中です)

それも、寝入ってから2~3時間が経過したときと限られています。

このメカニズムを、睡眠の「ステージ」から詳しく見てみましょう。

人間の睡眠は、「レム睡眠(浅い眠り、脳は活動)」と「ノンレム睡眠(深い眠り、脳も休息)」が約90分のサイクルで繰り返されています。

そして、成長ホルモンが最も大量に分泌されるのは、この90分サイクルのうち、最も深い眠りである「徐波睡眠(じょはすいみん)」(ノンレム睡眠のステージ3〜4)の間だけです。

この「最も深いノンレム睡眠」は、入眠後に訪れる最初の1〜2サイクル(=つまり、寝入ってから最初の90分〜180分)に、最も長く、深く現れます。夜中や明け方の睡眠は、レム睡眠の割合が増え、ノンレム睡眠は浅くなります。

つまり、「寝始めの最初の3時間」に、いかに深く、妨害されずに眠れるか。これが、成長ホルモンの分泌量を最大化し、筋肉の成長スピードを決定づける「ゴールデンタイム」なのです。

 

3. 睡眠不足が引き起こす「4つの大罪」

もし、この貴重な睡眠(特に最初の深い眠り)を疎かにすると、体はアナボリック(合成)とは真逆の、カタボリック(分解)な状態に突き落とされます。

① 成長ホルモンの分泌激減(アナボリック停止)

当然の結果です。睡眠時間が短かったり、眠りが浅かったりすれば、成長ホルモンが分泌される「最も深いノンレム睡眠」の時間が失われ、筋肉の修復・成長の機会が奪われます。

② コルチゾール(ストレスホルモン)の増加(カタボリック促進)

睡眠不足は、体にとって強烈な「ストレス」です。このストレスに対抗するため、体は「コルチゾール」を過剰に分泌します(ID 35参照)。コルチゾールは、筋肉を分解してエネルギーに変える「カタボリックホルモン」であり、あなたの筋肉を容赦無く溶かします。

③ テストステロン(男性ホルモン)の減少(アナボリック停止)

睡眠不足が続くと、筋肉の合成に不可欠な「テストステロン」のレベルが著しく低下することが研究で示されています。ある研究では、睡眠時間を1週間制限しただけで、健康な若年男性のテストステロン値が10〜15%も低下しました。

④ インスリン感受性の低下(=太りやすくなる)

睡眠不足は、インスリンの働きを悪くします(インスリン感受性の低下)。これは、ID 23で解説した、血糖値がコントロールできず「太りやすい」状態です。あなたが「食べる筋トレ」で摂取した栄養素(糖やアミノ酸)が、筋肉(修復)に向かわず、脂肪細胞(蓄積)に向かいやすくなってしまいます。

つまり、睡眠不足は「(筋肉を)合成するホルモン(成長ホルモン、テストステロン)を減らし、(筋肉を)分解するホルモン(コルチゾール)を増やし、さらに(脂肪を)蓄積しやすい体質(インスリン感受性の低下)」にする、最悪の行為なのです。

 

4. 筋肉を育てる「睡眠衛生(スリープハイジーン)」9つの戦略

「7〜8時間」という睡眠の「量」を確保することは大前提です。しかし、それ以上に重要なのが、成長ホルモンの分泌を最大化する「質」、すなわち「寝始めの3時間」をいかに深くするかです。

そのための具体的な戦略(睡眠衛生)を紹介します。

  1. 毎日「同じ時刻」に寝て、同じ時刻に起きる:
    これが最も強力な戦略です。体が「この時間になれば深い眠りに入る」というリズム(サーカディアンリズム)を覚えることで、入眠がスムーズになり、深いノンレム睡眠に到達しやすくなります。週末の寝だめは、このリズムを破壊します。
  2. 就寝1時間前からは「ブルーライト」を浴びない:
    スマートフォン、PC、テレビから発せられるブルーライトは、睡眠を誘うホルモン「メラトニン」の分泌を強力に抑制します。寝る直前までのスマホチェックは、成長ホルモンの分泌を自ら妨害する行為です。
  3. 寝室を「真っ暗」で「涼しく」「静か」にする:
    メラトニンは「光」によって分泌が止まります。わずかな豆電球の光でも、睡眠の質は低下します。室温は、深部体温を下げるために、やや涼しいと感じる程度(例:20〜24度)が理想です。
  4. 就寝3時間前までに「食事」を終える:
    就寝直前に食事を摂ると、消化活動のために内臓が働き続け、深部体温が下がらず、深い眠り(ノンレム睡眠)が妨げられます。(※ただし、後述の軽食は別)
  5. 就寝前の「アルコール」を避ける:
    ID 35で解説した通り、アルコールは「寝つき」は良くしますが、睡眠の後半部分(レム睡眠)を破壊し、利尿作用で夜中に目を覚まさせ、睡眠の質を壊滅させます。
  6. 就寝前の「カフェイン」を避ける:
    カフェイン(コーヒー、お茶、エナジードリンク)の覚醒作用は、人によっては6〜8時間持続します。夕方以降の摂取は、深い眠りを妨げる原因になります。
  7. 就寝前の「激しい運動」を避ける:
    激しい運動は交感神経を興奮させ、体を入眠モードから遠ざけます。ストレッチやヨガなどのリラックスできる軽い運動はOKです。
  8. 就寝前に「ぬるま湯」の入浴で深部体温をコントロールする:
    就寝の90分ほど前に、ぬるま湯(39〜40度)の入浴で意図的に深部体温を上げておくと、その後の体温が急降下するタイミングで、自然な強い眠気が訪れます。
  9. (上級者)就寝前の「追いタンパク(カゼイン)」:
    睡眠中は、長時間(7〜8時間)栄養が枯渇し、カタボリック(筋肉分解)が進みやすい時間帯でもあります。これを防ぐため、あえて就寝30分前に、消化吸収の遅い「カゼインプロテイン」(またはギリシャヨーグルト、カッテージチーズなど)を20〜30g摂取する戦略も、多くの上級トレーニーに採用されています。

 

まとめ:「トレ・食事・睡眠」の三本柱

筋トレの成果は、この三本柱の「最も弱い」部分で決まります。

トレーニング(破壊) × 食事(栄養) × 睡眠(回復) = 筋肥大

どれか一つでもゼロ(またはマイナス)なら、答えはゼロ(またはマイナス)です。完璧なトレーニングと完璧な食事(筋肉食堂DELI)を実践していても、睡眠が4時間なら、あなたの体は成長するどころか、むしろ分解(カタボリック)されている可能性すらあります。

「寝る間も惜しんで」トレーニングするのではなく、「寝る時間こそが最強のトレーニングである」と認識を改めること。それこそが、ライバルと差をつける最大の秘訣なのです。

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