2022.06.27
35 アルコールは、あなたの筋肉を破壊する
【科学的真実】アルコールがいかにしてあなたの筋肉を破壊し、努力を無駄にするか
多くの読者はご存じだとは思うが、本気で体づくりをするトレーニーにとって、アルコールは大敵です。
ただ、その理由を「なんとなく体に悪いから」というレベルでしか理解していない人は、どれくらいいるのでしょうか。
この「なぜ悪いのか」という科学的根拠を知らないと、「仕事帰りにジムに寄ってハードな筋トレをして、そのまま近所の居酒屋でビールを飲む」という、最悪の行動パターンに陥りかねません。
運動後のビールが最高にうまい。その気持ちは痛いほどわかります。
しかし、その一杯の飲酒が、せっかく1時間かけて行ったトレーニングの効果を無駄にするどころか、トレーニング前より筋肉が落ちてしまう(マイナスになる)ことさえあるのです。
▼アルコールによる「5大弊害」
アルコールによる悪影響は無数にありますが、トレーニー(筋肥大)の観点から、絶対に知っておくべき「5つの主な弊害」をお伝えします。
これを知れば、トレーニング後に「とりあえずビール」と無邪気に思うことは減るはずです。
弊害①:コルチゾールによる「筋肉の直接的な破壊(カタボリック)」
元の記事で指摘されている通り、アルコールは筋肉を「直接的に」破壊します。
アルコール(エタノール)を摂取すると、体はそれを「毒物(アセトアルデヒド)」として認識し、解毒するために「ストレス」を受けます。このストレスに対抗するため、副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。
コルチゾールは、ストレスに対抗するために不可欠なホルモンですが、筋肉にとっては「悪魔」のような働きをします。それは、コルチゾールが「筋肉(タンパク質)を分解してアミノ酸に変え、それをエネルギー(糖)として利用する(糖新生)」という、強力な「カタボリック(異化)作用」を持つからです。(33 筋肉は空腹時に壊される。 空腹よりはジャンクフードのほうがマシ! 腹が減る前にタンパク質を小分けにして食べろ参照)
つまり、アルコールを飲むと、コルチゾールの力によって、あなたの貴重な筋肉が(特に空腹時に飲むと)、エネルギー源として強制的に分解されてしまうのです。これは、筋トレ(合成シグナル)とは真逆の「分解シグナル」です。
弊害②:テストステロンの分泌阻害(アナボリックの停止)
筋肉の成長に不可欠な、最も強力なアナボリックホルモン(合成ホルモン)が「テストステロン」です(21 固定観念を捨てろ! 良質の油を味方につけて筋肉をつける参照)。アルコールは、このテストステロンの分泌を直接的に阻害します。
- 精巣への直接的な毒性:
アルコールは、テストステロンを製造する工場である「精巣(ライディッヒ細胞)」に対して直接的な毒性を持ち、その機能を低下させます。 - アロマターゼの活性化:
さらに悪いことに、アルコール(特にビールに含まれるホップなど)は、「アロマターゼ」という酵素を活性化させる可能性があります。アロマターゼは、男性ホルモン(テストステロン)を女性ホルモン(エストロゲン)に変換してしまう酵素です。
つまり、アルコールは「合成のアクセル(テストステロン)」を踏めなくさせ、同時に「分解のアクセル(コルチゾール)」を踏み込むという、最悪のコンボを引き起こします。
弊害③:筋タンパク質合成(MPS)の直接的な阻害
近年の研究では、アルコール摂取が「mTOR(エムトール)」経路を直接的に阻害することが示されています。mTORとは、筋肉の合成(MPS)を開始させる「メインスイッチ」のようなものです(31 トレーニング後の 「タンパク質+糖質」が最強である理由参照)。
特に、「トレーニング後にアルコールを摂取」した場合、mTORの活性化が著しく抑制され、せっかくのトレーニングによる「アナボリック・シグナル」が、アルコールによって強制的にシャットダウンされてしまうことがわかっています。
運動後にビールを飲む行為は、筋トレという「火事」を起こした後に、すかさず「消火器(アルコール)」を噴射して、筋肉が成長する機会(=火事後の修復・再建)を自ら奪う行為に他なりません。
弊害④:「エンプティカロリー」の罠と、脂肪燃焼の完全停止
アルコールは「エンプティカロリー」と呼ばれます。これは「カロリーが無い」という意味では断じてありません。アルコールは1gあたり約7kcal(脂質の9kcalに次ぐ高カロリー)もあります。
「エンプティ(空っぽ)」とは、ビタミン、ミネラル、タンパク質といった「筋肉の成長に必要な栄養素が全く含まれていない、ただのカロリー」という意味です。
そして、この「ただのカロリー」が、体脂肪の蓄積において最悪の働きをします。
体にとって「毒物」であるアルコールは、他のどの栄養素よりも最優先で代謝(解毒)されます。肝臓は、アルコールを無害な酢酸に変える作業に全リソースを割きます。
この「アルコール解毒中」に、何が起こるか。
体は「脂肪の燃焼」を「完全に停止」します。
なぜなら、アルコールの代謝が最優先であり、脂肪を燃やしている暇などないからです。その結果、アルコールと一緒に食べた「おつまみ」(唐揚げ、ポテトフライ、ラーメンなど)のカロリー(脂質や糖質)は、エネルギーとして使われることなく、ほぼ100%が「体脂肪」として蓄積されることになります。
アルコールが太る最大の理由は、アルコール自体のカロリーではなく、「脂肪燃焼を停止させ、一緒に食べたものの脂肪蓄積を最大化する」という、その代謝特性にあるのです。
弊害⑤:脱水と、睡眠の質の壊滅的低下
トレーニーにとって、筋肉の修復と成長のために「トレーニング」や「食事」と同じくらい重要なのが「睡眠」と「水分補給」です。アルコールは、この両方を破壊します。
- 脱水症状:
アルコールにはカフェインよりも強力な「利尿作用」があります(34 水は栄養の運び屋。 水分不足はパフォーマンスを半減させる参照)。ビールを1L飲めば、1.1Lの水分が尿として排出されると言われるほどです。体は強烈な脱水状態に陥り、血流は悪化し、栄養素のデリバリーは滞り、パフォーマンスは低下します。 - 睡眠の質の低下(成長ホルモンの阻害):
アルコールは「寝つき」を良くするかもしれませんが、睡眠の後半部分、特に筋肉の修復と成長に不可欠な「レム睡眠」と「深いノンレム睡眠」を著しく妨害します。深い睡眠が妨害されると、夜間に分泌されるはずの「成長ホルモン(HGH)」の分泌も阻害されます。成長ホルモンは、筋肥大と脂肪燃焼の両方に作用する最強のホルモンです。アルコールは、このゴールデンタイムを台無しにします。
ダメージコントロール戦略(どうしても飲む場合)
これだけの弊害を知れば、トレーニング後にアルコールを飲みたいとは思わなくなるはずです。しかし、社会生活において「ゼロ」にするのが難しい場合もあるでしょう。その場合は、以下の「ダメージコントロール(被害最小化)」戦略を徹底してください。
- 「トレーニング当日」は絶対に飲まない:
最低限のルールです。トレーニングでmTORのスイッチが入った「アナボリックな日」にアルコールを入れるのは、放火と消火を同時に行う愚行です。飲むなら、トレーニングをしない「オフの日」にしてください。 - 「醸造酒」より「蒸留酒」を選ぶ:
ビールや日本酒、ワインといった「醸造酒」は、糖質も多く含み、カロリーも高くなりがちです。ウイスキー、焼酎、ジン、ウォッカなどの「蒸留酒」(糖質ゼロ)を、水や炭酸水、無糖のお茶で割って飲むほうが、カロリーと血糖値への影響を最小限に抑えられます。 - 「飲む前」と「飲んでいる最中」にタンパク質を摂る:
アルコールによるカタボリック(筋肉分解)に対抗するため、血中アミノ酸濃度を高く保ちます。飲む前にプロテインを飲んでおく、おつまみは「枝豆、冷奴、焼き鳥(タレ以外)、刺身、ゆで卵」など、高タンパク・低脂質なものを徹底して選びます。 - 「飲んだ量の1.5倍」の水(チェイサー)を飲む:
脱水症状を防ぐため、アルコールと同量以上の「水」を必ず一緒に飲んでください。 - 「締めのラーメン」だけは絶対に避ける:
「アルコール(脂肪燃焼停止) + 高脂質・高糖質(ラーメン)」は、体脂肪を合成するための「最悪のレシピ」です。これは自殺行為として絶対に避けてください。
まとめ
アルコールは、トレーニーが積み上げてきた努力を、あらゆる側面から(ホルモン、代謝、睡眠、水分)無に帰す、まさに「筋肉の敵」です。
「食べる筋トレ」とは、筋肉に良いものを「足し算」するだけでなく、筋肉に悪いものを「引き算」することも含めたトータル戦略です。日々の食事管理に「筋肉食堂DELI」のような完璧な食事を取り入れていても、アルコールという「マイナス要因」が大きければ、その効果は相殺されてしまいます。
あなたの努力を最大化するために、アルコールとの付き合い方を今一度、真剣に見直すことを強く推奨します。
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